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未来型太陽電池を開発
新エネルギー分野 岡田研究室

地球上にさんさんと降り注ぐ太陽光エネルギー。東日本大震災以降、無尽蔵でクリーンな太陽光発電への期待が高まる中、光を電気に換える効率(変換効率)を上げる技術開発が加速している。 特に夢の新技術として注目を集めているのが、「量子ドット型」と呼ばれる太陽電池だ。この量子ドット型太陽電池の動作原理を世界に先駆けて実証し、太陽電池研究で最先端をいく岡田至崇教授(新エネルギー)の研究室を訪ねた。

量子ドットって?

  • 未来型量子ドット太陽電池の構造模式図
    未来型量子ドット太陽電池の構造模式図
  • 岡田研究室があるのは、先端研のCCR 棟。岡田教授は、ここを拠点にEU 各国の大学や研究機関とともに世界トップ水準の変換効率の太陽電池開発を展開し、「量子ドット型太陽電池の第一人者」と称されている。
    最近、ニュースでもよく耳にする量子ドット型太陽電池。しかし、「原理が難しくていまいち理解できない」と打ち明けると、岡田教授が丁寧に解説してくれた。

    「量子ドットとは、直径が十ナノメートル前後の人工的なナノ粒子。量子ドットを自然の原子と同じように周期的に並べ、量子ドットの『人工結晶』をつくると、『バンド』というエネルギー準位(離散的なエネルギー)が集まった束ができ、電子が自由に動けるようになります」。 岡田教授が原理を実証した「中間バンド」という方式の量子ドット型太陽電池は、量子ドットを三次元的に重ねることで、太陽電池の特定のエネルギー位置にバンドをつくりこみ、本来吸収できない波長の光も無駄なく吸収することができる。 例えば、赤色の光子を一つ吸収した電子が量子ドットから中間バンドへ持ち上がり、さらにもう一つ、今度は赤外の光子を吸収して中間バンドから伝導帯へ上がる。「量子ドットによって光が吸収された結果、電流が増大し、発電効率があがる」(岡田教授)。

理論効率は63%

現在、一般に普及しているシリコンや薄膜の太陽電池は、すでに理論効率に近いところまで性能が上がっているが、太陽からのエネルギーのうち30%は熱になってしまうなど、エネルギー変換に限界がある。 これ以上変換効率を上げるには、新しい原理に基づいた新技術が必要だ。岡田教授によると、「量子ドット型は、理論効率でいうと、従来のシリコン型の2 倍にあたる63%の変換効率を実現できる可能性を秘めている」という。

もっと、効率アップ!

これまでに岡田教授は16.1%、ロシアの研究機関は18.1%の変換効率の量子ドット型太陽電池を試作している。 岡田教授が試作した量子ドット型太陽電池には、1 平方cmあたり、500 ~1千億個もの量子ドットが入っているが、「まだまだ量子ドットの数が足りない」という。 効率を上げるには、現状の10 倍の量子ドットが必要で、岡田研究室ではさらに微小な量子ドットを作製し、きれいに並べるための技術開発を進めている。

「我が国の技術はトップレベルにある。10 年、20 年後にはいろんな研究が進み、今よりも太陽電池の発電効率は上がっているだろうが、そのころにもうひとつのラインナップとして量子ドット型太陽電池が市場に出ていれば」と夢を語る岡田教授。 岡田教授ら先端研の研究者がシャープなどとともに取り組むプロジェクト「ポストシリコン超高効率太陽電池の研究開発」は、2015年までに1000 倍の集光装置と組み合わせて48%の変換効率達成を目標に掲げている。 量子ドットと集光装置を組み合わせれば、シリコンのパネルと同等、それ以下の低コスト化も可能だ。 量子ドット型太陽電池が我々の生活のエネルギーを支える日は、そう遠い未来ではなさそうだ。

ここが知りたい!  「ポストシリコン超高効率太陽電池の研究開発」とは?

  • 中野義昭教授が全体リーダーを務め、先端研や豊田工大、名古屋大、名城大、宮崎大、九州大、電通大、兵庫県立大、シャープ、JX 日鉱日石エネルギーなどが共同で進めるNEDO プロジェクト。 1)集光型多接合太陽電池の研究開発 2)多接合用新材料の開発 3)量子ドットマルチバンドセル 4)光マネジメントに資する微細加工技術の開発 ― の4 研究テーマを展開し、岡田教授はテーマ3 の研究リーダーを務める。 プロジェクトが目標に掲げる「変換効率48%」(Concentrator PhotoVoltaics 48%)のアルファベット頭文字をとり、岡田教授はひそかにこのプロジェクトを「CPV48」と命名している。 人気アイドルグループの人気に便乗し、岡田教授プロデュースによる研究者軍団が太陽電池をアピールする日が来るかもしれない?

教授の横顔

  • 岡田 至崇 教授
  • 「私はもともとは結晶成長屋だったんですよ」と語る岡田教授。15年前、自身の研究人生を変える運命的な論文に出会った。 当時、岡田教授は真空装置を使って半導体の単結晶をつくる研究に取り組んでおり、「自分の研究の出口は光通信デバイスだと思っていたが、ナノ構造をつくりつけることによって、 太陽電池の効率を大幅に増大できる可能性があると書かれたBarnham 教授(インペリアルカレッジ・ロンドン)の論文を目にし、こういう応用もあるのかと衝撃を受けた」という。 その後は太陽電池研究の道へ一直線。「ほんとに運命的なものでしたね」と振り返った。

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