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人工次元フォトニクスの実証
~ 新しい光物理のオンチップ搭載 ~

  • プレスリリース

2022年1月29日

横浜国立大学
東北大学
慶應義塾大学
東京大学

本研究のポイント

  • 光集積プラットフォームとして世界的に普及しつつあるシリコンフォトニクス技術を用いて、トポロジカルフォトニクス注1)に関連する光学現象の一つ「周波数人工次元」の観測に初めて成功した。
  • ノーベル賞を受賞したトポロジカル絶縁体注2)の概念を光科学に拡張したトポロジカルフォトニクスが物理学的な研究から使える技術に発展する可能性がある。

研究概要

2016年、トポロジカル絶縁体の新しい電気伝導物理の開拓についての研究がノーベル物理学賞を受賞しましたが、この概念は周期的な構造の中を伝わる光にも当てはまり、さらには光の周波数列などの振る舞いにも適用できる可能性があります。この度、横浜国立大学 Armandas Balčytis(現在、ロイヤルメルボルン工科大学)、馬場俊彦教授、東北大学 小澤知己准教授、慶應義塾大学 太田泰友准教授、および東京大学 岩本敏教授は「人工次元」と呼ばれるこのような周波数列のユニークな光学現象を、世界標準的な光集積プラットフォーム「シリコンフォトニクス」を用いて初めて実証することに成功しました。これは人工次元を用いたトポロジカル現象実現への第一歩となり、トポロジカルフォトニクスが単なる物理学的な研究から、様々な光部品に応用される新しい要素となり得ることを示唆しています。

本研究成果はScience の姉妹紙である Science Advances に1月28日(現地時間)に掲載されました。

研究成果

シリコンフォトニクスで製作されたリング共振器を電気光学的に変調し、そのときの変調周波数や位相を操作して電場や磁場を模擬した作用を実現し、周波数方向の光の振る舞いを自由に操ることに成功しました。

実験手法

シリコン半導体の基盤技術であるCMOSプロセスを用いて、光変調器を内蔵したリング状の光学共振器をチップ上に形成し、この変調器に高周波電圧を加えて変調を行い、光学的な振る舞いを観測しました。

社会的な背景

トポロジカル絶縁体は、絶縁体の表面にのみ、特徴的な電流が流れる物質であり、これに関する研究成果はノーベル賞を受賞しました。この概念を拡張したトポロジカルフォトニクスが2000年代後半より話題になっており、現在でもNature、Scienceといったトップジャーナルやその関連誌において、多くの論文が発表されています。空間のみならず、周波数を次元として用いたトポロジカル構造を作る方法が提案され、光を用いた人工次元の形成がさらなる話題を提供しています。ただしこれまでの実験は光ファイバを組み合わせた大型な装置を用いていたため、純粋物理の原理実験に留まっていて、応用を議論できるような状況ではありませんでしたが、本研究は初めてオンチップの実験装置を組み上げて効果を実証することに成功しました。

今後の展開

トポロジカルフォトニクスでは、素子の表面にのみ光が伝搬し、条件によっては一方向にのみ光が伝わったり、構造の一部が不完全であっても光損失が生じなかったりと、従来にない機能や安定性が得られます。これにより、例えば戻り光の影響を受けない極めて安定性の高いレーザ、および歩留まりの高い生産が可能になるかもしれません。また、光集積回路内の不要な光ノイズが減少し、これまでは不可能だった大規模光集積回路も可能になるかもしれません。周波数人工次元では、これまで難しかった超高周波の光変調や、高性能な光フィルタを実現する可能性があり、現在、研究開発が進む次世代ネットワーク用の光電子融合回路の基盤技術になり、さらに、現在、1次元にとどまっている周波数軸を2次元に拡張できれば、本格的なトポロジカルフォトニクス現象を観測できる可能性を示唆しています。

  • 人工次元フォトニクス素子の構造(上)とこれによって形成された周波数列(下)
  • 人工次元フォトニクス素子の構造(上)とこれによって形成された周波数列(下)。
    挿入図は変調器に掛ける電圧信号の周波数と位相を調整することで、磁場を掛けたのと似た効果が表れている様子を表す。

付記

本研究は、JST戦略的創造研究推進事業CREST(課題番号 JPMJCR19T1)、さきがけ(課題番号JPMJPR19L2)などの研究助成の支援を受けました。

用語説明

  • 注1)トポロジカルフォトニクス
    光の伝搬が表面のみで起こる構造体や現象を扱う分野です。トポロジカル絶縁体と同様に、構造が不完全でも光の伝搬が安定し、従来は困難だった光集積回路が可能になると期待されています。
  • 注2)トポロジカル絶縁体
    電気を通さない絶縁体なのに、表面だけは電気が流れるという、従来の絶縁体、半導体,金属のどれにも当てはまらない、新しい種類の物質です。形のつながり具合を表す数学「トポロジー」によって現象が説明できることから、このような名前で呼ばれています。従来の物質よりも電子の振る舞いが安定することから、量子コンピュータの基本材料になるかもしれないという期待があります。

論文タイトル

“Synthetic dimension band structures on a Si CMOS photonic platform”
DOI:10.1126/sciadv.abk0468別ウィンドウで開く

問い合わせ先

極小デバイス理工学分野 教授  岩本 敏

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