1. ホーム
  2. ニュース
  3. プレスリリース
  4. 輸送ネットワークの統合による相乗効果メカニズムの解明―相性の良いネットワークの見つけ方―

輸送ネットワークの統合による相乗効果メカニズムの解明
―相性の良いネットワークの見つけ方―

  • プレスリリース

2024年11月6日

東京大学

発表のポイント

  • 複数の輸送ネットワークの統合によって生じる相乗効果を分析する理論的な枠組みを提案
  • ネットワークのどういった特徴が統合時の相乗効果に影響を与えるのかを解明
  • 物流などの輸配送システムの相互連携の指針となる知見を得た
  • 発表のポイント画像
  •  
    断片化されたネットワークの統合による相乗効果

概要

東京大学先端科学技術研究センター寄付研究部門先端物流科学の江崎貴裕特任講師、井村直人特任研究員、西成活裕教授らによる研究グループは、物流などの輸配送ネットワークが複数組み合わされた時の相乗効果が生じる条件について分析しました。一つのネットワークから相違度の異なる二つのネットワークを作成し、それらを重ねることでネットワークごとの潜在的な相乗効果の生まれやすさを定量化する手法(図1)を開発し、それにより特に「コア・周辺構造(注1)」を有するネットワークでは相乗効果が生まれにくいことを明らかにしました。また、そのようなネットワークでも異なるコア構造をもつネットワーク同士で統合を行うと一定の相乗効果が見込めることもわかりました。本研究成果は、今後物流ネットワークに限らずさまざまな輸送ネットワーク同士の連携を考える際の基準として役立つことが期待されます。

  • 図1
  •  
    図1:輸送ネットワークの相乗効果を定量化するための数値実験概要
    断片化されたネットワークを統合すると、個々のネットワークにおける最大流の和より大きな量を流すこと ができる。残存リンクの割合と統合するネットワークの相違度を制御しながら相乗効果の大きさを評価できる手法を開発。

研究者
 

ー研究者からのひとことー

持続可能な社会を目指すうえで、複数の既存インフラを組み合わせて抜本的な効率化を目指すアプローチが注目を集めています。特に、物流の業界では「フィジカルインターネット」と呼ばれる高度にネットワーク化された物流プラットフォームに複数の事業者が参加する仕組みが積極的に検討されていますが、どのような既存のネットワークの組み合わせが配送効率の向上につながるのかについては統一的な知見がありませんでした。本研究では、さまざまなネットワーク構造同士の連携がどのような効果を生むのかを考えるための基礎的な知見を明らかにした他、実システムの連携の効果を見積もる枠組みを開発しました。本研究を皮切りに、実際の物流ネットワークがより効率よく連携されていくために必要な分析を進めていきます。(江崎貴裕特任講師)

発表内容

物流や公共交通システムなどの輸送ネットワークでは、需要と供給の波動によってネットワークの一部が過剰に使用される一方で、他の部分は未活用のままになることがよくあります。また、災害などにより一部のネットワークが分断されることも少なくありません。このような分断されたネットワークを別の異なるネットワークと統合すると、それぞれのネットワークの中では孤立していた部分へのアクセスが可能になり、未利用の配送リソースを有効活用することができます。例えば物流の分野では、事業者間の共同配送により配送を最適化する取り組みが進んでいますが、これもネットワーク統合による相乗効果を示す事例の一つです。しかし、「どういったネットワーク同士で統合を行うと高い相乗効果が得られるのか」については、理論的な知見が存在していませんでした。
本研究は、どのような条件下でネットワークの統合が輸送効率を向上させるかを明らかにするために、新たな分析手法と数値実験を用いて、ネットワーク構造が相乗効果に与える影響を調査しました。その結果、ノード(注2)の重要度が比較的均一なネットワークでは大きな統合効果が得られる一方で、中心と周辺が明確に分かれた「コア・周辺構造」を持つネットワークでは、統合による効果が小さいことがわかりました(図2)。

  • 図2
  •  
    図2:ネットワーク種別の統合ネットワークにおける最大流の変化
    同一のネットワークを重ねた際の最大流(青)と、相違度がそれぞれ 25%(黄)、50%(緑)、75%(赤)、100%(紫)となる2つのネットワーク同士を重ねた際の最大流の比較。コア・周辺構造の強い Social 条件(SNSの友人ネットワーク)、Air 条件(航空ネットワーク)では相違度が大きいネットワーク同士を重ねても最大流が増えない。

また、同じ種類のネットワークを統合するよりも、異なる種類のネットワークを統合する方が、システム全体のパフォーマンスが向上することが確認されました。加えて、統合効果を予測する指標として最大連結成分(注3)の成長率に着目し、この指標を使うことで統合の効果を事前に評価できる可能性を示しました。

本研究は、今後の交通システムやインフラ計画において、持続可能で効率的なネットワーク構築の指針に対して示唆を与えます。例えば、物流においては複数の輸送モード(空路と海路など)を統合することで、輸送効率を高められることが期待されます。今後は、実際の交通データを用いたさらなる検証と、現実の制約条件を考慮した最適化手法の開発が目標となります。

発表者・研究者等情報

東京大学 先端科学技術研究センター 寄付研究部門 先端物流科学

  • 江崎 貴裕 特任講師
    井村 直人 特任研究員
    西成 活裕 教授

論文情報

雑誌:
PLOS Complex Systems
題名:
Synergistic integration of fragmented transportation networks: When do networks (not) synergize?
著者名:
Takahiro Ezaki*, Naoto Imura, and Katsuhiro Nishinari
DOI:
10.1371/journal.pcsy.0000017別ウィンドウで開く

研究助成

本研究は、科研費学術変革領域研究(A)「イオン渋滞学の構築に向けた数理・計算シミュレー ション解析(課題番号:24H02203)」の支援により実施されました。

用語解説

  • (注1)コア・周辺構造
    社会ネットワークや交通ネットワークなどにおいて頻繁に観察される概念で、ネットワークのノードが、他の要素たちと強く結びついている「コア」となる集団と、コアと少数の接点を持つが互いの結びつきが弱い「周辺」の集団に分かれている性質を指す。
  • (注2)ノード
    ネットワークを構成する結節点のこと。ノード同士を結び付けるリンクと合わせてネットワーク全体が定義される。
  • (注3)最大連結成分
    リンクでつながったノードの「島」のうち、最も大きいもののこと。

問合せ先

東京大学 先端科学技術研究センター 寄付研究部門 先端物流科学
特任講師 江崎 貴裕(えざき たかひろ)

関連タグ

ページの先頭へ戻る