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ショウジョウバエに学んでカビ臭を測る!
―昆虫嗅覚受容体センサ細胞を用いた現場検査技術の開発―

  • プレスリリース

2026年4月28日

東京大学

発表のポイント

  • 水道水で問題となっているカビ臭原因物質ジェオスミンに応答するキイロショウジョウバエの嗅覚受容体を用いて、ジェオスミンに対して蛍光強度変化を示す「センサ細胞」を作出しました。このセンサ細胞を高密度に固定化したカートリッジと市販の小型蛍光測定器とを組み合わせ、現場で高感度にジェオスミンを検知できる簡易検査技術を開発しました。
  • 開発した検査技術により、100pMオーダの極めて低濃度のジェオスミンが検出可能となりました。また、本技術の現場適用性を実証し、昆虫嗅覚受容体を導入したセンサ細胞を用いたジェオスミンの現場計測に初めて成功しました。
  • 本技術をダム湖などの水道水源に導入することで、ジェオスミン発生の早期検知が可能となり、水道水の品質管理への貢献が期待されます。
昆虫の嗅覚受容体を活用したセンサ細胞による簡易検査技術
OR:嗅覚受容体、Orco:共受容体、GCaMP6s:カルシウム感受性蛍光タンパク質

概要

 東京大学先端科学技術研究センターの光野秀文特任准教授、祐川侑司特任助教、神﨑亮平シニアリサーチフェローらの研究グループは、昆虫の嗅覚受容体(注1)を活用した水道水源の主要カビ臭成分「ジェオスミン」(注2)の高感度現場検査技術を開発しました。
 水道水などの飲料水では、カビ臭の混入が問題となることがあります。現在、水道施設ではGC-MS(注3)を用いたカビ臭濃度の測定が行われていますが、汚染への早期対応のためには、現場でカビ臭を迅速に検知できる技術が求められています。
 本研究では、キイロショウジョウバエの嗅覚受容体とカルシウム感受性蛍光タンパク質(注4)を昆虫由来の培養細胞に導入することで、ジェオスミンに対して高い蛍光応答を示すセンサ細胞を開発しました。さらに、これらの細胞を固定化したカートリッジを作製し、現場で簡便にカビ臭を検査できる技術を確立しました。
 従来、施設に備え付けられたGC-MSによる分析が必要であったジェオスミン検査を、現場で高感度に行える点に新規性があり、本技術は今後、水道水源でのカビ臭検査をはじめ、現場での臭気検査への応用が期待されます。

発表内容

 水道水をはじめとする飲料水では、カビ臭の混入が発生することがあり、安全に利用できる飲料水の確保の観点から大きな課題となっています。その原因の一つは、水道水源であるダム湖などにおいて藻類などに由来するカビ臭物質の濃度が上昇することであり、その検出の遅れがカビ臭の混入した飲料水の供給につながります。そのため、現場で簡便かつ高感度にカビ臭を検知できる技術が求められてきました。
 本研究では、昆虫の嗅覚受容体の中でも、カビ臭成分の一つであるジェオスミンを特異的に検出するキイロショウジョウバエの嗅覚受容体Or56a(注5)に着目しました。Or56aと共受容体Orcoに加え、カルシウム感受性蛍光タンパク質GCaMP6sの遺伝子をSf21細胞(注6)に導入し、ジェオスミンに対して高い蛍光強度変化を示す培養細胞系統(センサ細胞)の作出に成功しました。カビ臭にはさまざまな成分がありますが、このOr56aセンサ細胞はジェオスミンに対して特異的に応答することが確認され、ダム湖から採取した水試料中に混入したジェオスミンをセンサ細胞の蛍光強度変化として検出できることを示しました(図1)。
 また、水道水源であるダム湖などの現場での利用を想定し、センサ細胞をガラス片の表面に固定したカートリッジを作製し、市販の小型蛍光測定器(QuantusTM Fluorometer)と組み合わせた簡易検査技術を開発しました。本技術により、ジェオスミンを特異的に検出できることに加え、100pM(溶液換算で18.2ppt(注7)に相当)というごく低濃度から、濃度依存的に蛍光強度変化を取得できることを確認しました。さらに、本技術は可搬性を有しており、現場でダム湖表層水中に含まれるジェオスミンを検査できることを実証しました(図2)。
 従来、施設に備え付けられたGC-MSによる分析が必要であったジェオスミン検出について、本研究では昆虫嗅覚受容体を導入したセンサ細胞を用いることで、現場での高感度検知を初めて実証しました。本技術は、水道水源における水質管理への貢献に加え、穀物等農産物のカビ汚染の早期検知など、現場で迅速な検出が求められるさまざまな匂い物質の検査への応用が期待されます。

図1:主要カビ臭成分へのセンサ細胞の蛍光応答
(A)主要なカビ臭成分。(B)Or56aセンサ細胞とOr13aセンサ細胞(対照)の各カビ臭成分に対する蛍光応答の顕微鏡写真。蛍光強度変化を疑似カラーで表示した画像との重ね合わせを示す。スケールバーは100µmを表す。(C)Or56aセンサ細胞の各カビ臭成分に対する蛍光強度変化値。(D)Or13aセンサ細胞(対照)の各カビ臭成分に対する蛍光強度変化値。
図2:簡易検査技術による現場計測
(A)現場計測の様子。(B)現場の水サンプルに対する蛍光強度の経時変化。緑三角は現場水サンプル、橙丸は現場水にジェオスミンを添加したサンプルに対する結果を示す。

発表者・研究者等情報

東京大学
 先端科学技術研究センター
  光野 秀文 特任准教授
  祐川 侑司 特任助教
  照月 大悟 研究当時:特任助教
  二木 佐和子 学術専門職員
  黒田 枝里 学術専門職員
  櫻井 健志 研究当時:特任講師
  神﨑 亮平 東京大学名誉教授・特任研究員(シニアリサーチフェロー)

 大学院情報理工学系研究科
  荒木 章吾 研究当時:大学院生
  藤林 駿佑 研究当時:大学院生

 大学院工学系研究科化学生命工学専攻
  長棟 輝行 東京大学名誉教授
  山口 哲志 研究当時:准教授
  山平 真也 研究当時:特任研究員

 大学院工学系研究科都市工学専攻
  小熊 久美子 教授

論文情報

雑誌名:
Scientific Reports
題 名:
Portable geosmin detection system based on sensor cells expressing insect odorant receptors
著者名:
Hidefumi Mitsuno#*, Shogo Araki#, Yuji Sukekawa#, Daigo Terutsuki#, Sawako Niki, Eri Kuroda, Shunsuke Fujibayashi, Takeshi Sakurai, Kumiko Oguma, Satoshi Yamaguchi, Shinya Yamahira, Teruyuki Nagamune, Ryohei Kanzaki*(#:共同筆頭著者、*:責任著者)
DOI:
10.1038/s41598-026-41786-8別ウィンドウで開く

研究助成

本研究は、生研支援センター「オープンイノベーション研究・実用化推進事業」(JPJ011937)、「イノベーション創出強化研究推進事業」(JPJ007097)、科研費(課題番号:21K05613, JP21K19107, JP24K17285, JP25K22341)、東京大学GAPファンドプログラム、ダイキン工業株式会社の支援により実施されました。

用語解説

  • (注1)嗅覚受容体
    匂い分子を結合し、その情報を細胞内に伝達する膜タンパク質。昆虫の嗅覚受容体では、共受容体(Orco)とともに複合体を形成し、イオンチャネルとして機能する。
  • (注2)ジェオスミン
    カビや藻類などに由来するカビ臭成分。水道水では、ジェオスミンおよび2-メチルイソボルネオールが主要なカビ臭成分である。
  • (注3)GC-MS
    ガスクロマトグラフ質量分析計。匂いなどの化学物質を高感度に検出する分析装置で、主に実験施設などに設置される大型機器。
  • (注4)カルシウム感受性蛍光タンパク質
    カルシウムイオンを結合するカルモジュリンと緑色蛍光タンパク質(GFP)をもとにしたタンパク質。細胞内のカルシウムイオン濃度の変化を蛍光強度の変化として検出する。
  • (注5)Or56a
    キイロショウジョウバエの嗅覚受容体の一つ。ジェオスミンに対して特異的に応答する。
  • (注6)Sf21細胞
    ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)の卵巣由来の培養細胞。
  • (注7)ppt(parts per trillion)
    1兆分の1を表す濃度単位。

問合せ先

東京大学先端科学技術研究センター
特任准教授 光野 秀文(みつの ひでふみ)

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