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渦状分子配向を持つマイクロ球体から土星の輪状のレーザー発振を実証

  • プレスリリース

2026年6月11日

国立大学法人筑波大学
国立大学法人東京大学
国立大学法人東京科学大学
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)

 キラル(鏡像を重ね合わせることができない構造)なπ共役高分子(炭素原子の単結合と二重結合が交互に連なった分子)が形成するマイクロ球体において、球体表面に渦状の分子配向が生じることを見いだしました。また、この球体では、レーザー発振が円環放射(土星の輪)状に起こることが分かりました。

 光を微小空間で制御することは、光集積回路や局所センサーなどの次世代光デバイスにおいて重要な技術です。発光性を示すπ共役高分子(炭素原子の単結合と二重結合が交互に連なった分子)から形成されるマイクロ球体は、自らの発光を閉じ込めて増幅する光共振器として振る舞い、微小な有機レーザー素子への応用が期待されています。しかし、球体は等方的な形状であるため、全方向に光の放射が起こり、放射方向を定めることは困難でした。
 本研究では、キラル(鏡像を重ね合わせることができない構造)なπ共役ポリマーの自己組織化によって形成したマイクロ球体において、光の共振現象が閉じ込め経路の角度に依存し、特定の方位角方向にレーザー発振が生じることを実証しました。
 このマイクロ球体は、ねじれ双極構造と呼ばれる特異な分子配向構造を持ちます。球体表面の偏光発光イメージングにより、このねじれ双極球体の表面では高分子主鎖が渦状に配列していることを可視化しました。また、この渦状の分子配向が、球体表面では光が周回する経路によって異なる屈折率をもたらすために、共振波長や発光位置が球体の方位角に依存することを見いだしました。さらに、この球体では、増幅された光が円環放射(土星の輪)状に強く放射される、方向選択的なレーザー発振が生じました。本研究は、球体表面に形成した渦状の分子配向を利用して、球体形状でありながら光の放射方向を制御できることを示した初めての成果です。

研究代表者

筑波大学 数理物質系
 山本 洋平 教授
 大木 理 助教

東京大学 先端科学技術研究センター
 岩本 敏 教授

東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所
 Wenbo Lin(林 文博) 助教

研究の背景

 光を微小な空間で制御する技術の開発は、光集積回路や局所センサーなどの次世代光デバイスの発展において重要です。発光性のπ共役ポリマー注1)から形成されたマイクロ球体は、光を閉じ込めて増幅するWhispering Gallery Mode(WGM)光共振器注2)として振る舞い、微小な有機レーザー素子として機能します。しかし、従来の高分子マイクロ球体は、分子の無秩序な凝集とその外形の等方性から、閉じ込められる光の経路は特定の方向に定まらず、放射方向を定めることは困難でした。一方、液晶分子注3)がつくる微小液滴は「分子配向を持つ球体」であることが知られています(図1)。分子配向を持つ球体固体光共振器が実現すれば、微小な空間でのレーザー発振の放射方向や偏光状態をより精密に制御できる可能性がありますが、液晶液滴は流動性があるために分子配向や形状が変化しやすく、球体表面の分子配向と光機能の相関を精密に調べることは容易ではありません。
 本研究グループはこれまでに、キラル注4)なπ共役ポリマー((S,S)-PFBT))の自己組織化注5)により、「ねじれ双極球体」というらせん分子配向を持つマイクロ球体が形成することを報告しています。このねじれ双極球体は固体であり、分子配向と光共振器機能の相関を調べる上で格好のモデル物質です。そこで今回、このねじれ双極球体の表面構造に着目し、その光共振器・レーザー発振特性について調べました。

研究内容と成果

 本研究では、上述のねじれ双極球体について詳細に構造を検討し、ねじれ双極球体では光の共振波長や発光位置が球体の方位角に依存していることを明らかにしました。さらに、増幅された光が特定方向へ強く放射される角度依存性の高いレーザー発振を実証しました(図2)。
 今回用いたπ共役ポリマーからの発光は、その主鎖方向に沿った直線偏光注6)を示すことが知られています。そこで、球体表面の分子配向を把握するために、顕微鏡下で直線偏光発光イメージングを行いました。その結果、球体の表面において、トロポジカル欠陥注7)を中心にポリマー主鎖が渦状に配向していることが可視化されました(図3)。これは、ねじれ双極球体表面の分子配向を直接観察した初めての例です。
 この渦状分子配向をもとに光共振器のモデルを構築したところ、光の閉じ込め経路により屈折率が異なることが明らかになりました(図4)。このことは、光の閉じ込め経路の傾き(方位角:α)に依存して、光の共振波長が変化することを示唆します。次に、ねじれ双極球体の光共振器特性を評価するため、球体1粒子の発光をハイパースペクトルカメラ注8)で撮影しました。その結果、モデルから予測されるように、ねじれ双極球体上では光の共振波長が球体の方位角に依存することが、実験からも確認されました。また、渦状の分子配向により、ねじれ双極球体上では特定の方位角方向へ光が強く放射され、これにより、特定の方位角の閉じ込め経路で強い光共振が生じることが明らかになりました(図5)。
 このねじれ双極球体をフェムト秒レーザー注9)で励起すると、レーザー発振が確認され、その強度の方位角依存を評価した結果、30°と210°の方位角方向に強い発光強度が観測されました(図6)。これは、ハイパースペクトルカメラで確認された強い光共振経路において光が最も効率的に増幅され、レーザー光が円環放射状(土星の輪状)に放射されたことを示しています(図7)。すなわち、ねじれ双極球体は、外形は球体でありながら、球面に形成した渦状の分子配向によって、特定の断面方向へ強く放射されるレーザー発振を示すことが明らかになりました。

今後の展開

 今後、球面上の分子配向やねじれ構造をさらに精密に設計し、より高い指向性を持つマイクロレーザーや光センサーへの応用が期待できます。また、本研究で示した「分子配向を持つ球体光共振器」は、従来の球体光共振器とは異なる新しい光制御手法であり、局所空間における光の進行制御や偏光制御への展開が期待されます。

参考図

図1
図1 液晶分子から形成する微小な液滴に現れる分子配向(橙色の点線)の例。分子が表面に対し垂直に配向する場合は放射状液滴、分子が表面に対し平行に配向する場合は双極液滴が形成することが知られている。
図2
図2 本研究で用いたキラルπ共役ポリマーの(S,S)-PFBTの分子構造と、ねじれ双極球体から特定の方位角(α)方向に光が共振し放射している模式図。高分子主鎖を橙色の点線で表現している。高分子主鎖は短軸方向と長軸方向で異なる屈折率を示し、それぞれ常光屈折率(ordinary refractive index, no)および異常光屈折率(extraordinary refractive index, ne)と呼ばれる。この屈折率異方性によって、ねじれ双極球体表面では、光の周回経路に依存した屈折率分布が生じる。
図3
図3 実際のねじれ双極球体1粒子に対し、その極方向(図左側)ならびに赤道方向(図右側)から撮影した直線偏光発光イメージング画像(図上側)と、そのモデル構造の模式図(図下側)。球体はいずれもz軸方向から観察されている。イメージング画像の色は分子配向の向きによってに色分けされている。ねじれ双極球体の球体表面ではトポロジカル欠陥を中心に、反時計回りの渦状分子配向が形成している。
図4
図4 (a)実際のねじれ双極球体の上を、方位角αで周回するWGM共振のTEモード(球面に対し平行な方向に振動する電場)の模式図。(b)ねじれ双極球体モデルから計算された、方位角αの光閉じ込め経路に依存した円周の平均屈折率。(c)WGM共振波長(λWGM)の方位角αに対する依存性。lは共振のモード(振動パターン)数を表す。方位角αに依存して、λWGMが長波長側や短波長側に変化する。
図5
図5 (a) ねじれ双極球体の赤道方向から撮影したハイパースペクトルカメラ画像。Q1~Q4はxy座標における第1~第4象限を表す。球体の縁の特定の位置に強い発光が観察される。(b) ハイパースペクトルカメラ画像(図5aのλ=563nm)における球体全体(i)、Q1領域の輝点(ii)、極近傍の輝点(iii)から得られた発光スペクトル。球全体ではWGMに特有の共鳴発光ピークは明瞭ではないが、各輝点では鋭い共鳴発光ピークが確認される。(c) ハイパースペクトルカメラ画像の球の縁から獲得した発光強度の方位角依存性。Q1およびQ3領域に強い発光が放射されている。(d)各波長のハイパースペクトルカメラ画像において、Q1領域に観察される輝点(ii)の方位角プロット(緑丸)と、図4で構築したモデルを用いたフィッティングカーブ(赤線)。モデルは、共鳴波長が方位角に依存して変化する実験結果をよく再現している。
図6
図6 (a)ねじれ双極球体1粒子(直径3.6µm)から観測されたレーザー発振スペクトル。各スペクトルの横の数字は励起光のパワー強度を表す。右上の両対数プロットは、励起光のパワーに対する発光スペクトルの面積を示しており、プロットの非線形性はレーザー発振を裏付ける特徴の一つである。(b)ねじれ双極球体1粒子からのレーザー発振強度の方位角依存測定の模式図。赤道方向から励起し、基板をxy面内で回転することでレーザー光の放射強度の方位角依存性を測定した。(c,d)ねじれ双極球体1粒子(直径4.2µm)から観測されたレーザー発振スペクトルの方位角依存性とそのピーク波長(559nm)のピーク強度プロット。30°と210°の方位角方向に強いレーザー光が放射されている。
図7
図7 ねじれ双極球体から円環放射状に放射するレーザー発振の様子を土星のような天体に見立てた模式図。背景に流れているのは(S,S)-PFBTの分子骨格を模した構造物。球体表面の多色模様は図3の直線偏光発光イメージング画像のカラーマップ結果を反映している。

用語解説

  • 注1)π共役ポリマー
    π電子系(単結合と二重または三重結合が交互に連なった分子構造の電子状態)を有する有機分子が連なったポリマー。発光特性や電気伝導特性を発現する。
  • 注2)Whispering Gallery Mode(WGM)光共振器
    光の共振メカニズムの一つ。ロンドンのセントポール大聖堂にあるささやきの回廊(Whispering Gallery)では、ささやいた声(音波)が曲面状の壁に沿って反射しながら伝わり、反対側にいる人にまで明瞭に届く現象が知られている。この現象における音波を光の波に置き換えたものがWGM光共振であり、球状などの微⼩構造の内部で光が表⾯に沿って全反射を繰り返しながら周回し⼲渉することで、特定の波⻑の光が増幅する。
  • 注3)液晶分子
    全体では方向性の秩序(配向性)は保っているが、分子スケールでは流動する結晶と液体の中間の性質を示す分子。
  • 注4)キラル
    実像と鏡像の構造が⼀致しない性質のこと。
  • 注5)自己組織化
    ランダムな状態にある分子同士が自発的に集まり、一定の秩序や形を持つ集合体を形成する現象。
  • 注6)直線偏光
    進行方向に対して電場の振動方向が一定方向にそろった光のこと。
  • 注7)トポロジカル欠陥
    限られた空間で分子が規則正しく配列しようとした際に生じる構造欠陥(秩序方向が存在しない特異な点)。
  • 注8)ハイパースペクトルカメラ
    光を波長ごとに細かく分解して撮影できる分光イメージング装置。
  • 注9)フェムト秒レーザー
    フェムト秒(1000兆分の1秒)オーダーのパルス幅を持つレーザー。

研究資金

 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR20T4, JPMJCR19T1)、同事業 ACT-X(JPMJAX23D8)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(JP19J20398, JP24H00470, JP24H01693, JP24K17742, JP26H01697)、日本学術振興会 海外特別研究員制度、筑波大学-DAADパートナーシップ・プログラム、ドイツ研究振興協会(SFB 1375 NOA, Project No. 398816777、IRTG 2675 Meta Active, Project No. 437527638)による支援を受けて行われました。

掲載論文

【題 名】
Angle-Selective Optical Resonance and Circular Radial Lasing from a Chiral Polymeric Microsphere.
(キラル高分子マイクロ球体における角度選択光共鳴と円環放射状レーザー発振)
【著者名】
Osamu Oki,* Wenbo Lin, Soh Kushida, Sota Nakayama, Hiroshi Yamagishi, Fumio Sasaki, Jer-Shing Huang, Satoshi Iwamoto, Yohei Yamamoto*
【掲載誌】
Journal of the American Chemical Society
【掲載日】
2026年6月8日
【DOI】
10.1021/jacs.6c01819別ウィンドウで開く

問合せ先

東京大学 先端科学技術研究センター 極小デバイス理工学分野
教授 岩本 敏(いわもと さとし)

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