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薬剤が結合した受容体の立体構造を迅速かつ高精度に決定する手法を開発
―AIと人工設計タンパク質を用いた汎用的なGPCR構造解析パイプラインを構築―

  • プレスリリース

2026年8月28日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

発表のポイント

  • AIによる立体構造予測を活用して構造解析に適した条件を選別するプログラム「NOAH」と、人工設計タンパク質「ARK1」を統合した、薬の標的として重要なGタンパク質共役型受容体(GPCR)に広く適用できる構造解析パイプラインを開発しました。
  • GPCRは小さく、クライオ電子顕微鏡画像中で向きや位置を判別しにくいため、従来は高分解能での解析が困難でした。本パイプラインにより迅速かつ高分解能で解析できるようになり、複数のGPCRで、薬剤が結合した状態の高分解能構造を決定し、水分子やイオンを含む結合ポケットの詳細を可視化しました。
  • この研究成果は、創薬ターゲットとして重要なGPCRの構造をより迅速かつ高精度に明らかにするものであり、医薬品開発の効率化への貢献が期待されます。
NOAH-ARK1パイプラインの概略図
NOAH-ARK1パイプラインの概略図

概要

 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻の小島朝翔大学院生、東京大学先端科学技術研究センター所属の加藤英明教授、川上耕季特任准教授、小林和弘特任助教、奈良先端科学技術大学院大学の小林直也助教らによる研究グループは、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)(注1)の高分解能構造を効率的に決定する、汎用(はんよう)的な構造解析パイプラインを開発しました。
 本研究では、タンパク質の立体構造予測技術を活用して有望な実験条件を選定するNOAH(注2)と、人工タンパク質(注3)ARK1(注4)を組み合わせた、新たな構造解析技術を開発しました。これにより、従来は高分解能での構造解析が困難であった複数のGPCRについて、薬剤が結合した状態の構造を、水分子やイオンを含めて高分解能で決定することに成功しました。
 得られた構造からは、薬剤が受容体のどこに結合し、どのように受容体の働きを制御するかを理解するための重要な知見が得られました。本成果は、GPCRを標的とする創薬研究において、薬剤候補の比較や改良を効率化し、構造ベース創薬(注5)の加速に貢献することが期待されます。

発表内容

<研究の背景>

 Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、ホルモンや神経伝達物質などの情報を細胞内へ伝える膜タンパク質で、私たちの体のさまざまな働きに関わっています。多くの医薬品がGPCRに作用することから、GPCRが薬剤をどのように認識し、どのように機能を変えるのかを立体構造から理解することは、新しい薬剤の開発に重要です。一方で、GPCRはクライオ電子顕微鏡(注6)を用いて単独解析するには小さく、画像中でGPCRの向きや位置を判別しにくいという課題がありました。従来は、GPCRにアポ型シトクロムb562変異体(BRIL)(注7)などのタンパク質をつなぎ、電子顕微鏡画像で向きを見分けやすくする方法が用いられてきました。しかし、こうした融合タンパク質をどの位置に、どの長さでつなぐのが適切かを見つけるには、多くの候補を実際に試す必要があり、これには多くの時間とコストが必要とされてきました。

<研究の内容>

 本研究グループは、タンパク質の立体構造予測技術を活用して、GPCRと融合タンパク質をどのようにつなぐかという実験条件を実験前に選別するプログラムNOAHを開発しました。
 NOAHでは、タンパク質立体構造予測ツールであるColabFold(注8)による予測構造に対して、予測の信頼性に加え、細胞膜との位置関係やαヘリックス(注9)の周期性を考慮した独自の指標を導入しました。これにより、GPCRと融合タンパク質をつなぐ条件を効率よく絞り込めるようになりました。
 さらに、GPCRへの融合に最適化された新規融合タンパク質として、自然界には存在しない配列を用いた人工タンパク質ARK1を設計しました。ARK1をGPCRに融合させることで、GPCR領域を、従来よりも高分解能で解析できることを示しました(図1)。

図1:ARK1融合型GPCRとBRIL融合型GPCRの局所分解能の比較
図1:ARK1融合型GPCRとBRIL融合型GPCRの局所分解能の比較

 本研究では、バソプレシンV2受容体(V2R)(注10)ブラジキニンB2受容体(B2R)(注11)短鎖脂肪酸受容体(FFA2)(注12)リゾホスファチジン酸受容体(LPA2)(注13)など性質の異なる受容体で手法の有効性を確認しました(図2)。得られた構造から、薬剤が受容体のどの場所にどのように結合するか、またその結合が受容体の働きにどのような影響を与えるかを理解するための知見が得られました。これらの情報は、薬剤候補の作用の違いを理解し、よりよい候補を設計するうえで重要です。

図2:NOAHおよびARK1を用いて構造解析を行った例
図2:NOAHおよびARK1を用いて構造解析を行った例
<今後の展望>

 NOAH-ARK1パイプラインは、従来、多くの時間を要していたGPCRの構造解析における試行錯誤を減らし、薬剤候補が結合した構造をより効率よく得るための基盤になると考えられます。今後、さらに多様な受容体や化合物に応用することで、GPCRを標的とした構造ベース創薬の加速につながることが期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学
 先端科学技術研究センター
  加藤 英明 教授(兼:同大学大学院理学系研究科 教授)
  川上 耕季 特任准教授(兼:東北大学大学院薬学研究科 准教授)
  小林 和弘 特任助教

 大学院総合文化研究科
  小島 朝翔 大学院生(博士課程)(兼:日本学術振興会特別研究員)

奈良先端科学技術大学院大学
 先端科学技術研究科
  小林 直也 助教(研究当時)

論文情報

雑誌名:
Nature Structural & Molecular Biology
題 名:
Universal Pipeline for High-Resolution GPCR Structure Determination
著者名:
Asato Kojima, Kouki Kawakami, Naoya Kobayashi, Kazuhiro Kobayashi, Toshiki E. Matsui, Kohei Uemoto, Yuzhong Gu, Tomohiro J. Narita, Mai Kugawa, Masahiro Fukuda, Hideaki E. Kato*
DOI:
10.1038/s41594-026-01869-6別ウィンドウで開く

研究助成

 本研究は、「JSPS KAKENHI(課題番号: JP24KJ0981, JP22H05426, JP24H01139, JP23KJ0363, JP24K18286, JP26K02174, JP24K18060, JP25H02243, JP24H02262, JP25K09525, JP21H04969, JP22H00400, JP25K22445, JP25H01338)」、「JST 戦略的創造研究推進事業さきがけ(課題番号: JPMJPR24OF)」、「JST 創発的研究支援事業(課題番号: JPMJFR204S)」、「JST 戦略的創造研究推進事業 CREST(課題番号: JPMJCR21P3, JPMJCR23B1)」、「AMED(課題番号: JP24bm1123057, JP26ak0101309)」、「AMED BINDS(課題番号: JP22ama121002, JP23ama121002, JP24ama121002)」「千里ライフサイエンス振興財団」、「上原記念生命科学財団」、「第10回JACI若手研究奨励賞」、「アステラス病態代謝研究会」、「花王芸術・科学財団」、「持田記念医学薬学振興財団」、「内藤科学技術振興財団」、「上廣倫理財団」、「武田科学振興財団」、小野薬品工業株式会社の支援によって実施されました。

用語解説

  • (注1)Gタンパク質共役型受容体(GPCR)
    細胞膜を7回貫通する構造を持つ受容体タンパク質。ホルモンや神経伝達物質など、さまざまな生理活性物質の信号を細胞内に伝える。ヒトでは約800種類のGPCRが存在し、現在使用されている医薬品の約3分の1がGPCRを標的としている。
  • (注2)NOAH
    本研究で開発したNOn-experimental, AI-assisted, High-throughput construct screening for structural analysisの略称。タンパク質立体構造予測を用いて、GPCRと融合タンパク質をつなぐ候補配列を実験前に評価し、構造解析に適した候補を絞り込むプログラム。
  • (注3)人工タンパク質
    人工的に設計されたアミノ酸配列を持ち、自然界には存在しない構造や機能を備えたタンパク質。
  • (注4)ARK1
    本研究で設計した人工タンパク質であるARtificially-designed fiducial marKer 1の略称。GPCRに融合させることで、クライオ電子顕微鏡画像中の受容体の向きや位置を判別しやすくする目印として機能する。
  • (注5)構造ベース創薬
    標的タンパク質の立体構造や、薬剤候補との結合様式をもとに候補化合物を設計・改良する創薬手法。
  • (注6)クライオ電子顕微鏡
    2017年にノーベル化学賞の対象となった技術。極低温環境でタンパク質試料に電子線を照射し、その投影像から立体構造を計算して求める手法。この手法によって、タンパク質の構造解析にかかる時間が大幅に短縮され注目を集めている。
  • (注7)アポ型シトクロムb562変異体(BRIL)
    細菌由来のシトクロムb562を改変し、ヘムを含まない状態で安定化した小型タンパク質。GPCRなどの膜タンパク質に融合させることで、結晶化やクライオ電子顕微鏡による構造解析を助ける目的で用いられる。
  • (注8)ColabFold
    Google DeepMind社によって開発されたタンパク質立体構造予測手法AlphaFold2の構造予測モデルを利用し、タンパク質の立体構造を高速に予測する計算ツール。
  • (注9)αヘリックス
    タンパク質の代表的な二次構造の一つ。アミノ酸鎖が一定の周期性をもってらせん状に巻いた構造であり、一般的には3.6残基ごとに1回転する。GPCRは、細胞膜を貫通する7本のαヘリックスから構成されている。
  • (注10)バソプレシンV2受容体(V2R)
    抗利尿ホルモンであるバソプレシンを認識するGPCR。主に腎臓で水の再吸収を調節し、体内の水分バランスや血圧の制御に関わる。V2Rの機能異常は尿崩症などの疾患と関連する。
  • (注11)ブラジキニンB2受容体(B2R)
    炎症や痛みに関わるペプチドであるブラジキニンを認識するGPCR。血管拡張、血管透過性の亢進(こうしん)、痛みの伝達などに関与し、炎症反応や循環調節に重要な役割を果たしている。
  • (注12)短鎖脂肪酸受容体(FFA2)
    腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸を認識する受容体の一つ。腸管上皮細胞、免疫細胞、脂肪細胞、膵臓(すいぞう)β細胞など、さまざまな組織に発現しており、免疫系の制御や代謝の調節に重要な役割を果たしている。
  • (注13)リゾホスファチジン酸受容体(LPA2)
    リゾホスファチジン酸(LPA)を認識するGPCRの一つ。細胞増殖、細胞移動、生存シグナルなどに関わり、発生、創傷治癒、炎症、がんなどの生命現象や疾患との関連が知られている。

問合せ先

東京大学先端科学技術研究センター
教授 加藤 英明(かとう ひであき)

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