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非標識の細胞形態情報をAIで高速に判別し、目的細胞を分取する技術を開発

  • 研究成果

2021年12月21日

シンクサイト株式会社
東京大学先端科学技術研究センター
理化学研究所
シスメックス株式会社
順天堂大学

発表のポイント

  • 機械学習解析技術と高速形態計測技術を融合し、複数の細胞種が混ざった集団から、目的の細胞を非標識形態情報に基づいて、高速に判別・分取する技術を開発した。
  • 上記技術の実用化に向けて、iPS細胞の生死などの状態、分化と未分化、がん化などの非標識判別および末梢血由来の白血球細胞主要5種の、非標識形態情報に基づいた判別を実証した。
  • 今後、再生医療・細胞医薬での細胞製造工程における品質管理への応用や、臨床検査における細胞形態検査への応用等が期待される。

発表概要

多様な細胞集団から目的の細胞を迅速に判別して分取する技術は、生命科学の基礎研究のみならず、検体検査をはじめとする検査診断、さらには細胞治療や再生医療などの細胞自体を活用した医療において重要です。これまでに用いられてきたフローサイトメトリーは、細胞を高速で判別・分取できる有力な技術ですが、計測できる形態情報は顕微鏡に比べて少なく、また、分子マーカーを基準とする場合には蛍光標識が必要であり、その細胞毒性および標識操作の手間やコストなどが課題でした。一方、光学顕微鏡を用いれば高精細な細胞画像を取得できますが、特に多くの検体を扱う分野では、計測・解析・分取するスピードが十分ではなく、時間や労力を要してきたことが課題でした。その結果、細胞を標識せずに、その細かな形態情報から細胞の種類や状態を高速で判別し、分取する技術はこれまで確立していませんでした。

今回、太田禎生博士(東京大学先端科学技術研究センター 准教授)、鵜川昌士博士(理化学研究所革新知能統合研究センター テクニカルスタッフ I)、河村踊子博士(シンクサイト株式会社 応用マイクロ流体グループ長)らの研究グループは、機械学習による解析技術と高速形態計測技術を融合し、非標識の細胞形態計測情報から抗体などの分子マーカーに基づいた解析結果を直接予測することにより、目的の細胞を非標識に高速に判別・分取する技術を開発しました。異なる2種の細胞株を用いて、両細胞を非標識で判別・分取する技術を実証した上で、細胞株のみならず、iPS細胞の生死などの状態、分化と未分化、がん化などの非標識判別、末梢血由来の白血球細胞主要5種の非標識判別を実証しました。

本研究は、東京大学、シンクサイト株式会社、理化学研究所、シスメックス株式会社、順天堂大学の共同研究として行われました。本研究の成果は、細胞治療、再生医療や検査診断分野において、非標識での細胞判別や分取の技術に貢献すると期待できます。

発表者名(現在)

太田 禎生
(東京大学 先端科学技術研究センター 准教授)
鵜川 昌士
(理化学研究所 革新知能統合研究センター不完全情報学習チーム テクニカルスタッフI)
河村 踊子
(シンクサイト株式会社 応用マイクロ流体グループ長)
林 洋平
(理化学研究所 バイオリソース研究センターiPS細胞高次特性解析開発チーム チームリーダー)
田端 誠一郎
(シスメックス株式会社 システム技術研究所長)
髙久 智生
(順天堂大学 医学部内科学血液学講座 准教授)
佐藤 一誠
(東京大学 大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻 准教授)
堀﨑 遼一
(東京大学 大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻 准教授)
野地 博行
(東京大学 大学院工学系研究科応用化学専攻 教授)

発表内容

既に太田らによって、蛍光標識細胞の圧縮されたイメージング情報を機械学習させることにより、細胞内の異なる蛍光分布に基づき細胞集団を高速で判別する、蛍光版のゴーストサイトメトリー技術が確立されています(Ota et al, 2018, Adachi et al, 2020)。

本発表内容は、蛍光標識をせずに細胞を判別・分取できるようにゴーストサイトメトリー技術を発展させたものです。あらかじめ非標識形態情報と分子マーカーの情報を学習させた機械学習モデルを用いて、分子マーカーによる解析結果を、細胞の圧縮された非標識形態情報信号から直接予測し、目的の細胞を高速に判別・分取する技術を開発しました。本手法を、機械標識(in silico labeling)に基づいたゴーストサイトメトリー技術(iSGC:in silico-labeled ghost cytometry法、図1)と名付けました。

  • 図1
  • 図1:iSGCによる細胞判別・分取のスキーム(A、B)と、異なる2種類の細胞株(青:HeLa S3細胞、赤:MIA PaCa-2細胞)を用いた実例(C~E)(論文内のFigure 1, Figure 2より抜粋して再構成)

iSGCでは、正解ラベルの作成と判別結果の検証に用いるために蛍光標識された細胞群をマイクロ流路に送液し、各細胞から、非標識細胞形態信号と蛍光信号の情報ペアを機械学習モデルの学習用データセットとして取得します(図1A)。そして、蛍光信号解析の結果(Ground truth、図1C)を正解ラベルとして、非標識細胞形態信号から直接予測する機械学習モデルを学習させます。そしてこのモデルをFPGA(Field Programmable Gate Array、書き換え可能な高速回路)に実装することにより、マイクロ流路を高速に流れる細胞から得られる非標識細胞形態信号を高速にリアルタイムに判別し(図1B、D)、細胞を選択的に分取(図1E)できることを実証しました。

そして、今後の細胞治療、再生医療や診断への実用化を念頭に、iPS由来細胞や末梢血由来細胞に対するiSGCの適用を検証しました。iPS由来細胞については、臨床により適した細胞の選別という観点から、従来のフローサイトメトリーで取得される前方散乱光(FSC)や側方散乱光(SSC)のみでは正確な判別が難しいとされてきたアポトーシス等の細かな細胞死の状態の判別を、iSGCによって高い精度で行えることを示しました。さらに、分化細胞群の移植におけるリスク軽減という観点から、iPS細胞(HEC:肝内胚葉性細胞、NEC:神経外胚葉性細胞)の分化・未分化の判別および分化細胞(RPE:網膜色素上皮細胞)中に混入したがん化細胞(Y-79:網膜芽細胞腫細胞)の判別が、iSGCにより可能であることを示しました。末梢血細胞については、血液診断における重要なパラメータである末梢血白血球の主要5種類(好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球)をiSGCにより高精度で判別できることを示しました(図2)。さらにこの実証では、あるドナーの白血球を用いて学習した機械学習モデルにより、同じドナーの白血球の組成を予測できるだけでなく、異なるドナーの白血球の組成も予測できることが示され、モデルの汎用性が示唆されています。

  • 図2
  • 図2:iSGCによる末梢血白血球の分類(論文内のFigure 5F, 5Gを抜粋して再構成)

本研究の成果は、細胞治療、再生医療や検査診断において、非標識での細胞判別および分取に貢献すると期待できます。

本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」研究領域 課題名:新規高速高感度イメージングによる超高速蛍光画像サイトメトリー、研究代表者:太田禎生(JPMJPR14F5)、「光の極限制御・積極利用と新分野開拓」研究領域 課題名:データ駆動型光計測・光制御 研究代表者:堀﨑遼一、「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」研究領域 課題名:統計的潜在意味解析によるデータ駆動インテリジェンスの創発 研究代表者:佐藤一誠、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業(JPNP17008)などの支援により行われました。

論文情報

タイトル:
In silico-labeled ghost cytometry
著者名:
Masashi Ugawa, Yoko Kawamura, Keisuke Toda, Kazuki Teranishi, Hikari Morita, Hiroaki Adachi, Ryo Tamoto, Hiroko Nomaru, Keiji Nakagawa, Keiki Sugimoto, Evgeniia Borisova, Yuri An, Yusuke Konishi, Seiichiro Tabata, Soji Morishita, Misa Imai, Tomoiku Takaku, Marito Araki, Norio Komatsu, Yohei Hayashi, Issei Sato, Ryoichi Horisaki, Hiroyuki Noji, & Sadao Ota
雑誌:
eLife
DOI:
10.7554/eLife.67660別ウィンドウで開く

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