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GaN結晶中の転位の誘導ラマン散乱イメージングに成功
―新たな非破壊・3次元の可視化技術でGaNデバイスの発展に貢献―

  • 研究成果

2026年5月8日

東京大学

発表のポイント

  • 窒化ガリウム(GaN)結晶中にある転位と呼ばれる欠陥を可視化するために、誘導ラマン散乱と多光子フォトルミネッセンスを組み合わせた新たな顕微鏡を開発。
  • 高密度に存在する転位の多様な情報を非破壊・3次元で観察することに成功し、GaNデバイスのリーク電流源として知られるらせん転位の識別にも適用できることを実証。
  • 次世代パワー半導体であるGaNの、結晶品質やデバイス性能向上への貢献、工場での非破壊検査への応用に期待。
誘導ラマン散乱顕微鏡によるGaNの転位計測
誘導ラマン散乱顕微鏡によるGaNの転位計測

概要

 東京大学大学院工学系研究科の高橋俊大学院生、前田拓也講師、先端科学技術研究センターの小関泰之教授らの研究グループは、電気自動車などにおける電力変換デバイスへの応用が期待されている次世代半導体材料「窒化ガリウム(GaN)」の、結晶内部にある転位(注1)の詳細な評価に向けて、2種類の非線形光学顕微鏡を組み合わせた非破壊・3次元イメージング手法を開発しました。具体的には、誘導ラマン散乱(SRS)顕微鏡(注2)多光子フォトルミネッセンス(MPPL)顕微鏡(注3)から得られる画像を解析することにより、転位の位置に加えてバーガースベクトル(注4)の面内成分を結晶成長方向に沿って追跡することに成功しました。また開発した手法は、GaNデバイスのリーク電流源として知られるらせん転位(注5)の識別にも適用可能であることを実証しました。本手法は、高品質な結晶の成長技術の確立、転位がもたらす影響の更なる理解によるデバイス性能の向上、そして工場での半導体ウェーハ検査などに役立つことが期待されます。

発表内容

 GaNは高い電界強度に耐えうる半導体材料で、電気自動車や電力・デジタルインフラの心臓部となるパワーデバイス(電力変換素子)への応用が世界中で研究されています。しかし、その結晶中には転位と呼ばれる結晶欠陥が高密度に存在しており、一部がpn接合においてリーク電流源として働くことで、デバイス性能や寿命を著しく悪化させることが知られています。そのため転位をより良く理解し低減するために、転位の可視化・評価手法が強く求められており、従来手法では非破壊・3次元観察や転位種の識別が課題でした。
 本研究では、振動イメージング技術の一つであるSRS顕微鏡を用いて、転位の周辺に現れる僅かな歪みを高速に可視化することに成功しました。また、転位位置の非破壊・3次元観察で近年利用が広がっているMPPL顕微鏡と組み合わせ、同時取得したSRS・MPPL画像から転位に関する様々な情報を抽出することで、位置だけでなくバーガースベクトルの面内方向も含めた転位の非破壊・3次元観察を実現しました。さらにSRS・MPPL両画像の相補的な関係を活かし、転位種の識別にも応用できることを示しました。実験で取得したGaN基板のMPPL像を図1(a)に示します。画像中に多数確認できる暗点が転位の位置を表しており、80µm四方の視野に104個(密度:約106個/cm2)存在します。同じ視野で同時取得したSRS像を図1(b)に示します。転位周辺に現れる結晶の歪みは格子振動スペクトルのピークシフトとして検出することができ(図1(c,d))、空間パターン方向とピークシフト量がバーガースベクトルの面内成分に対応します。同様の情報が得られる自発ラマン顕微鏡と比較して、SRS顕微鏡では100-1000倍の高速化を実現し、MPPL顕微鏡と組み合わせたマルチモーダル3次元イメージングを可能にしました。図2は、高密度に存在する転位が結晶成長方向に沿って伝搬・会合・分裂する様子をそのバーガースベクトルの面内方向を明らかにしながら3次元追跡することに世界で初めて成功した結果です。さらに、らせん転位に特有の性質である、MPPL像では暗点として現れる一方でSRS像には歪みパターンを形成しないという点に注目し、両画像を比較することでGaNデバイスのキラー欠陥として知られるこの種の転位を検出できることを実証しました。
 本手法で開発されたイメージング技術は、GaN結晶の結晶成長条件の最適化や転位の詳細な評価と理解、それを基にしたGaNデバイスの信頼性・性能の向上、また半導体製造ラインでの非破壊ウェーハ検査といった幅広い領域に貢献することが期待されます。

図1:(a) MPPL像。
図1:(a) MPPL像。転位の存在するところが暗点として現れる。(b) SRSピークシフト像。転位の周辺で格子振動が高周波化(赤)・低周波化(青)している様子が見て取れる。(c) (b)黒枠内の拡大像。(d) (c)中点線のラインプロファイル。
図2:GaN基板中の転位のバーガースベクトル面内方向成分の3次元マッピング。
図2:GaN基板中の転位のバーガースベクトル面内方向成分の3次元マッピング。

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院工学系研究科
  高橋 俊 研究当時:博士課程
  若本 裕介 研究当時:修士課程
  前田 拓也 講師

 先端科学技術研究センター
  車 一宏 助教
  小関 泰之 教授(兼担:大学院工学系研究科)

論文情報

雑誌名:
ACS Photonics
題 名:
Three-Dimensional Imaging of Threading Dislocations in GaN by Multimodal Stimulated Raman Scattering Microscopy
著者名:
Shun Takahashi, Yusuke Wakamoto, Kazuhiro Kuruma, Takuya Maeda, and Yasuyuki Ozeki*
DOI:
10.1021/acsphotonics.6c00312別ウィンドウで開く

研究助成

 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費「JP23H00271」「JP23KJ0729」「JP25K22085」、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「JPMJCR2331」、文部科学省「JPMXS0118067246」の支援により実施されました。

用語解説

  • (注1)転位
    線状の結晶欠陥の一種。半導体デバイスに電気的・光学的な悪影響を及ぼす。
  • (注2)誘導ラマン散乱(SRS)顕微鏡
    振動イメージング技術。振動周波数と対応する2色のピコ秒光パルスを用いて信号を増幅することで、自発ラマン顕微鏡と比較して高速に計測ができる。
  • (注3)多光子フォトルミネッセンス(MPPL)顕微鏡
    多光子励起により生成した電子-正孔対の再結合に伴う発光を観測するイメージング技術。転位は非発光再結合中心として働く。
  • (注4)バーガースベクトル
    結晶格子のずれの向きと大きさを表したベクトル。転位の性質を示す重要な特徴量の一つ。
  • (注5)らせん転位
    転位は、転位線とバーガースベクトルの向きの関係から、刃状転位・らせん転位・混合転位に分類できる。

問合せ先

東京大学先端科学技術研究センター
教授 小関 泰之(おぜき やすゆき)

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