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能登半島地震後のストリートビュー画像の価値と課題を解明
―被災地の状況を伝える「情報インフラ」の運用・設計指針を提案―

  • 研究成果

2026年5月22日

東京大学

発表のポイント

  • 2024年能登半島地震後、被災地の石川県珠洲市において約640kmの全方位路上画像(ストリートビュー画像)を発災約1ヶ月後・約7ヶ月後に撮影および公開後、被災地でのストリートビュー画像の価値と懸念点、および実用化に向けた課題を調査しました。
  • インタビューと質問紙の結果から、被災地の住民と地元出身者の多くが発災直後の撮影に賛成した一方、画像の公開時期に関する意見は異なる傾向が見られ、遠隔地での高い閲覧ニーズと被災者が抱える脆弱性の非対称な関係が示されました。
  • 本成果は、災害時のストリートビュー画像を、被災者の安全と公共的利活用の両立のもとで持続可能に運用するための、実践的な指針を提供するものです。
図1:石川県珠洲市におけるストリートビュー画像の撮影機材(左)と撮影画像(右)
図1:石川県珠洲市におけるストリートビュー画像の撮影機材(左)と撮影画像(右)

概要

 東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野の大伏仙泰特任助教(当時)・減災まちづくり分野の大津山堅介特任講師(当時)・身体情報学分野の稲見昌彦教授による研究グループは、2024年能登半島地震後に被災地で撮影および公開したストリートビュー画像が、遠隔からの状況把握や復旧支援・災害記録に寄与する一方で、被災者のプライバシーや防犯上の懸念への配慮が課題であることを明らかにしました。
 発表者らはオンラインのインタビューと質問紙により住民や地縁者を含む閲覧者の反応を調査しました。また、発災直後の撮影方法に関する技術的課題を専門家へのインタビューを通じ検討しました。 本論文では、災害時におけるストリートビュー画像を、立場の異なる人々の間で意味や利害が交渉され続ける境界オブジェクト(注1)として位置付け、閲覧数を距離で正規化した閲覧線密度(注2)を導入し、公衆の関心の偏りを併せて可視化しました。

図2: 石川県珠洲市におけるストリートビュー画像の撮影範囲(赤:2024 年2 月、青:2024 年8 月)
図2: 石川県珠洲市におけるストリートビュー画像の撮影範囲(赤:2024年2月、青:2024年8月)

発表内容

 自然災害の応急対応では、迅速かつ正確な情報収集と協調作業の支援が不可欠です。コンピュータ支援協調作業(CSCW)の分野では、ソーシャルメディア画像や衛星画像に基づく地理空間情報の集約(クライシスマッピング)が提案されてきました。しかし近年、ソーシャルメディアでは誤情報や偽の救助要請など、不正確な情報拡散が問題となっています。また、衛星・空撮画像は広域把握に有効である一方、詳細な状況把握には地上撮影と地図の組み合わせが不可欠です。Googleは東日本大震災や熊本地震後にストリートビュー画像を公開しましたが、その目的は記録と記憶の継承にありました。
 本研究では、2024年能登半島地震の応急期におけるストリートビュー画像の役割に注目しました。発表者らは石川県珠洲市全域で発災1ヶ月・7ヶ月後に撮影を行い、同市に相談の上、Google Street ViewおよびMeta Mapillaryで公開しました。その後、利用実態や被災者・利用者の心情を明らかにするため、2024年9月上旬にインタビューと質問紙によるオンライン調査を実施し、計33名から回答を得ました。また、地上画像の網羅的撮影には多数の協力が必要であることから、実用化に向けた知見の抽出も目的としました。限られた撮影リソースを活用するためには撮影ルートの選定が必要となることから、本研究では単位距離あたりの閲覧状況と利用ニーズについても調査しました。
 質問紙の結果は回答者の属性により差が見られました。回答者30名中、発災直後の撮影に賛成したのは29名でしたが、プライバシー対策を前提とした即時公開への賛成は、元住民15名中14名に対し現住民では4名中1名にとどまりました。即時公開は遠隔地からの状況理解に有効と評価される一方、被災した住民の一部からは窃盗被害への懸念も示され、脆弱性に関する非対称性が確認されました。そこで、公開時期の調整やアクセス制御など、公共性と個人の安心・安全を両立する情報インフラとしての運用・設計指針を提案し、継続的かつ参加型の再設計プロセス(インフラストラクチャリング)の重要性を議論しました。閲覧数は人口密度と相関しつつ、報道が集中した地点や景勝地では相対的に高い傾向が見られました。人口密度は撮影優先度の指標となり得る一方、復旧担当者からはアクセス困難地域を含む網羅的撮影の必要性も指摘され、広範囲の撮影の重要性も示唆されました。

図3:ストリートビュー画像の閲覧線密度は人口のほか報道が集中した地域でも相対的に高くなる傾向が見 られました(道路の赤線部分)
図3:ストリートビュー画像の閲覧線密度は人口のほか報道が集中した地域でも相対的に高くなる傾向が見られました(道路の赤線部分)

 なお、本研究は東京大学倫理審査専門委員会の承認のもと実施されました。発表者によるストリートビュー画像のGoogle Mapsへの投稿は第三者による投稿機能(Street View Studio)を利用したもので、Googleによる撮影とは独立に行われました。

発表者・研究者等情報

東京大学 先端科学技術研究センター
 大伏 仙泰 研究当時:身体情報学分野 特任助教
  現:京都橘大学工学部情報工学科 専任講師
 大津山 堅介 研究当時:減災まちづくり分野 特任講師
  現:神戸大学都市安全研究センター 准教授
 稲見 昌彦 身体情報学分野 教授

論文情報

雑誌名:
Proceedings of the ACM on Human-Computer Interaction
題 名:
Infrastructuring Street-Level Imagery in Post-Disaster Contexts: Lessons from the 2024 Noto Peninsula Earthquake
著者名:
Noriyasu Obushi, Kensuke Otsuyama, and Masahiko Inami
DOI:
10.1145/3788057
URL:
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3788057別ウィンドウで開く

研究助成

 本研究は、JSPS科研費(課題番号:JP24K23884)・RCAST助成の支援を受けて実施されました。2026年10月に開催予定の国際会議 ACM CSCW 2026 での発表は公益財団法人上廣倫理財団の支援を受ける見込みです。

用語解説

  • (注1)境界オブジェクト
    異なる立場の人々の間で共有されつつ、解釈の柔軟性を保ちながら協働を可能にする媒介物。
  • (注2)閲覧線密度
    撮影区間の距離あたりのストリートビュー画像の閲覧数で定義した閲覧回数を示す指標。ストリートビュー画像を構成する各動画に含まれる道路延長は動画により異なるため、本論文では単位距離あたりの閲覧数により比較しました。

問合せ先

東京大学先端科学技術研究センター
教授 稲見 昌彦(いなみ まさひこ)

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