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細胞を光制御する新しい手法 ~光で溶ける殻で細胞を一つずつ包む技術を開発~

  • 研究成果

2022年3月14日

  • 細胞のケージングとアンケージングの概念図
    化学の分野では、光分解性の保護基を修飾して分子を一時的に不活性化することを「ケージング(檻に入れる)」と呼び、光で保護基を脱離させて再活性化することを「アンケージング」と呼びます。今回の技術は、光溶解性の殻で包むことで細胞をケージングし、光照射でアンケージングできます。©山口 哲志
  • 東京大学先端科学技術研究センター生命反応化学分野の山口哲志准教授らの研究グループは、細胞の機能を光活性化する新手法を開発しました。本研究成果は、2022年1月17日付けで「Chemistry-A European Journal」に掲載されました。

    現在、植物や微生物由来の光応答性タンパク質の遺伝子をヒトの細胞のゲノムに組み込み、細胞の機能に関わるタンパク質を光応答性にする技術が盛んに研究されています。しかし光遺伝学という手法では、一度に制御できるタンパク質は一種類であり、複数のタンパク質が複雑に関わる機能を制御するのは難しく、外来の遺伝子の組み込みは、医療への応用に制限があります。

    今回研究チームは、光溶解性の殻で細胞を丸ごと一つずつ包み込むという全く新しい手法を用いました。包みこまれた細胞は、生体適合性の高い高分子材料とタンパク質で作られた殻によって周辺環境との相互作用が遮断され、細胞の機能が一時的に抑制されます。そこに、ある波長域の光を照射すると、殻が溶けて細胞の機能が回復します。そのため、遺伝子自体を操作する必要はなく、細胞の外側に材料などを作用させるだけで、原理的にどんな細胞も制御できるようになります。研究チームはこの技術を使い、細胞と基板との接着や伸展、また、免疫細胞による異物の貪食といった、様々なタンパク質が関わる機能の光活性化ができることを確認しました。

細胞の働きを1細胞ずつ光で遠隔操作できれば、周辺の細胞や環境への影響を正確に調べることができ、新しい薬や診断方法の開発につながると期待されます。また、光による三次元造形技術を用いて細胞接着を空間的に操作すれば、複雑な生体組織を再現でき、再生医療の発展にも貢献できます。副作用の強い治療用の免疫細胞などを、患部でのみ活性化させることで、細胞治療の課題を将来的に解決することも期待されます。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金「若手研究(A)(課題番号:24686094)」、さきがけ(課題番号16815021)などの研究助成の支援を受けました。

【論文情報】

著者名:
Satoshi Yamaguchi, Kazuki Chujo, Noriyuki Ohashi, Kosuke Minamihata, Teruyuki Nagamune
タイトル:
Photo-Degradable Protein-Polymer Hybrid Shells for Caging Living Cells
雑誌名:
Chemistry-A European Journal
DOI:
10.1002/chem.202103941
URL:
https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.202103941別ウィンドウで開く

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