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知床の森を復活させる効果的な植林方法の検証

  • 研究成果

2022年5月18日

東京大学先端科学技術研究センター生物多様性・生態系サービス分野の小林勇太特任研究員と森章教授らの研究グループは、植林後100年間の森林回復過程のシミュレーションにより、炭素吸収量と生物多様性を回復させるための時間対効果の高い手法を特定しました。本研究成果は、2022年3月23日付けでRestoration Ecology誌に掲載されました。

北海道の北東部に位置する知床半島は、1964年に全国22番目の国立公園として認定されました。オオワシやシマフクロウ、シレトコスミレといった希少な動植物の生息地であるほか、陸と海の生き物たちの命が循環する特別な生態系を有する代表的な日本の国立公園です。しかしながら、公園内の一部は入植者による開拓によって農地へと転換されてきた歴史を持ちます。現在、公園内において農業は行われていませんが、過去に存在していた針葉樹と広葉樹が混交する天然林は失われ、草本類が優占する耕作放棄地が残されています。

研究チームは、知床国立公園の耕作放棄地において、植栽密度(0~10,000本/ha)と植栽種数(1~6種)を変化させた31通りの植林シナリオ毎に、森林へと回復していく過程を「iLand」と呼ばれる森林景観モデルを用いてシミュレーションを行いました。その結果、炭素吸収量の回復は植栽密度の増加と共に早まり、生物多様性の回復は植栽密度の減少・植栽種数の増加と共に早まることがわかりました。これに加えて、生態系回復の軌道を著しく乱してしまう危険な植林方法が存在することを発見しました。特に、単一種の高密度植栽は、炭素吸収量の回復は早いものの、生物多様性の回復を100年以上も遅らせる可能性があることがわかりました。

全球規模で深刻化する気候変動や生物多様性損失に歯止めをかけるうえで、改変された生態系の修復は有効な施策の一つです。シミュレーションの対象地域では、斜里町と公益財団法人知床財団による森林再生運動(100平方メートル運動の森・トラスト)が行われてきました。活動資金は全国から寄せられる寄付金であり、限られたリソースの中で効果的な植林方法を模索しています。本研究は、このようなグローバルな課題の解決に向けたローカルな取り組みに対し、科学の貢献を示した一例として広く活用されることが期待されます。

小林勇太特任研究員は次のように述べています。「森の中で芽生えた樹木の実生は、大人になるまで数十年の時間を必要とします。また、樹木の寿命は人間をはるかに超えるほど長く、森林はゆっくりと時間をかけながら変化していきます。そのため、植林をはじめとする森林再生活動には、100年後の森林を予想しながら適切な方法を取捨選択しなければなりません。しかし、深刻化する気候変動や人間活動の影響を勘案すると、森林の将来予測は専門家であっても難しい作業になります。この点において、本研究で用いた森林景観モデルは、自然と人間が共生する持続可能な社会をバックキャストするための強力なツールの一つです。今後もより正確で柔軟な将来予測のためのモデル改良に努めてまいります。」

本研究は、科学研究費補助金(19J15582)、三井物産環境基金研究助成(R17-0062)、SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(JPMJRX21I4)などの研究助成の支援を受けました。

  • iLandにおける森林回復シミュレーションのデザイン
  • 図1:iLandにおける森林回復シミュレーションのデザイン。上段の緑色のセルには、知床国立公園の典型的な天然林が再現されている。炭素吸収量と生物多様性の評価は黒枠で囲まれた地域のシミュレーションデータに基づいて行った。下段の画像は、iLand上で仮定した実際の自然林(A)と復元対象地(B)の様子を示している。©小林勇太
  • 炭素吸収量と生物多様性の回復にかかる時間
  • 図2:炭素吸収量と生物多様性の回復にかかる時間。植栽密度と植栽種数を変化させた31の修復シナリオ毎の6つの指標(パネルaからf)の回復時間(年)。回復時間は、天然林からえられた値の50%の値に到達するまでの時間と定義した。植栽密度0本/haは、植栽なし(自然再生のみ)シナリオに相当する。©小林勇太

【掲載論文情報】

著者名
Yuta Kobayashi, Rupert Seidl, Werner Rammer, Kureha F. Suzuki, Akira S. Mori
タイトル
Identifying effective tree planting schemes to restore forest carbon and biodiversity in Shiretoko National Park, Japan
雑誌名
Restoration Ecology
DOI
doi:10.1111/rec.13681別ウィンドウで開く

【研究者】
小林 勇太 特任研究員
生物多様性・生態系サービス分野 森研究室

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