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ダンスで高齢者の認知機能を効果的に改善 ~コロナ禍でも自宅で認知機能を向上させるダンスプログラムを開発~

  • 研究成果

2022年6月7日

東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野の宮﨑敦子特任研究員(研究当時:理化学研究所情報システム本部客員研究員兼務)と檜山敦特任教授らの研究グループは、ダンス&ボーカルユニットTRFのメンバーと共に、高齢者が自宅で認知機能を向上させるダンスプログラムを開発し、その効果を実証しました。

有酸素運動は、加齢とともに低下する実行機能を改善します。しかし、コロナ禍で多くの高齢者が外出自粛を余儀なくされ、運動量や日常生活で身体を動かす機会が減少しました。その結果として生じる二次的な問題を防ぐため、安全に自宅で身体活動を維持するための効果的な戦略を早急に確立する必要があります。

研究では、軽度認知障害(MCI)や認知症に対して脆弱である歩行能力と模倣能力をトレーニングする運動プログラムを準備し、健康な60歳以上の男女90人をノルディック歩行(一定の運動強度が確実に得られる有酸素運動)群、DVDを見ながらダンス(有酸素運動を伴う模倣トレーニング)群、普段どおりに日常生活を送るコントロール群に分け、無作為比較対照試験を実施しました。無作為比較対照試験は、医療分野で用いられる根拠の質(エヴィデンスレベル)の高い研究手法です。運動負荷による筋量減少を避けるため、全員が週3回アミノ酸を含む菓子を摂取しました。離脱しなかった86人を分析の対象とし、認知機能・運動機能・身体組成を計測、変化量(介入後の得点から介入前の得点を引いて算出)により3群を比較しました。ノルディック歩行とダンス群は実行機能の改善があり、ダンス群は、全般的な認知機能も有意に改善しました。さらにダンスは、ノルディック歩行よりも最大歩行速度、模倣能力で大幅な改善を示し、高齢者に効果的なプログラムであることが分かりました。

本研究により4週間のトレーニングでも、認知および神経学的な身体機能を改善することを示すことができました。あまりダンスに馴染みのない高齢者にも、親しみやすい音楽をベースにしたダンスプログラムは、認知症発症リスクを下げるための強力なツールになり得ることが期待されます。

宮﨑敦子特任研究員は次の様にコメントしています。「認知症予防に運動を積極的に取り入れることが推奨されています。今回提供したプログラムのノルディック歩行は運動量が稼げる歩行トレーニングです。ダンスは週ごとに新しい音楽と振付が変わるため、運動量より模倣トレーニングが優先されます。どちらのプログラムも4週間で高齢者に対して脆弱な実行機能を変えることができました。しかし、ダンスは全般的な認知機能を改善した上に、トレーニングをしていない歩行能力をも改善したことに驚きました。最速歩行速度はより認知機能と関係性があります。多くの方々にぜひ、大好きな音楽でダンスをしていただきたいです。」

本研究の一部は、エイベックス・エンタテインメント株式会社の支援を受けて行われました。

  • 認知機能の変化量
  • 認知機能の変化量
    左:主要評価項目である全般的な認知機能のMoCA変化量。ダンス群が他の2群と比較して改善した。右:実行機能を評価するFABは、ノルディック歩行とダンス群の両群でコントロール群より改善した。 ©2022 宮﨑敦子

【発表雑誌】

雑誌名:
International Journal of Environmental Research and Public Health
論文タイトル:
Effects of Two Short-Term Aerobic Exercises on Cognitive Function in Healthy Older Adults during COVID-19 Confinement in Japan: A Pilot Randomized Controlled Trial
著者:
Atsuko Miyazaki, Takashi Okuyama, Hayato Mori, Kazuhisa Sato, Keigo Kumamoto and Atsushi Hiyama
DOI番号:
10.3390/ijerph19106202別ウィンドウで開く

【研究者】

宮﨑 敦子 特任研究員 身体情報学分野

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