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コロイド量子ドット太陽電池を用いた波長分割3接合太陽電池で30%超の変換効率を実現

  • 研究成果

2022年7月27日

東京大学先端科学技術研究センター 附属産学連携新エネルギー研究施設の久保貴哉特任教授、新エネルギー分野の岡田至崇教授は、東京大学教養学部附属教養教育高度化機構の王海濱特任講師、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻の瀬川浩司教授(先端科学技術研究センターエネルギー環境分野兼務)と共同で、コロイド量子ドット(注1)太陽電池(図1)を用いた波長分割3接合太陽電池を作製し、赤外吸収太陽電池を用いた多接合太陽電池(注2)として世界最高性能となる変換効率30%超を達成しました。本研究成果は、2022年7月9日付で、「ACS Energy Letters」誌に掲載されました。

コロイド量子ドット太陽電池は、塗布製造できる低コストの赤外吸収太陽電池です。コロイド量子ドットを用いると、ウエットプロセス利用が可能なため、太陽電池基材の選択の自由度が高く、軽量で屈曲性のある太陽電池の作製が可能です。また、III-V族化合物2接合太陽電池(InGaP/GaAs)薄膜を基板からはがすリフトオフ技術の進展により、高価な基板の再利用が可能になり、高効率を維持しつつ低コスト化が見通せるようになっており、汎用性が高くなることが期待できます。
本研究では、ZnOナノワイヤ(注3)とPbSコロイド量子ドットを組み合わせ、コロイド量子ドット太陽電池を作製しました。この組み合わせにより、太陽光で生じたキャリア(電子または正孔)の輸送特性を維持しながら、光吸収量の増加を実現しました。量子ドットの吸収領域制御を行った上で、ZnOナノワイヤ集合体に充填することで、混合層を1 µm程度まで厚膜化し、赤外光の捕集効率を高めて太陽電池の短絡電流密度として39.8 mA/cm2を達成しました(図3)。さらに、コロイド量子ドット太陽電池を、従来からあるIII-V族化合物2接合太陽電池(InGaP/GaAs)に組み合わせ、新たに波長分割3接合太陽電池(図2)を作りました。InGaP/GaAsの2接合太陽電池の吸収端(870 nm程度)よりも長波長の太陽光でも、2接合太陽電池の短絡電流密度よりも大きな17.3 mA/cm2を発生させることが可能となりました。その結果、InGaP/GaAsの2接合太陽電池と組み合わせた波長分割3接合太陽電池の短絡電流密度は、量子ドットボトムセルの光電流で律速されることがなくなり、変換効率として、2端子接続で30.6%を達成することができました。ウエットプロセスで作製した赤外吸収太陽電池を用いた多接合太陽電池で、30%超を達成したのは世界初です。

日本のカーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーの主力である太陽光発電の普及拡大が不可欠です。本研究を発展させ、低コストで、軽量化と高効率化を兼ね備えた太陽電池を実現できれば、従来の太陽電池の設置環境に加え、狭小地や、車両や航空機などの乗り物への利用も期待できます。

本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業」による支援を受けて実施されました。

発表雑誌

著者名:
Haibin Wang, Shoichiro Nakao, Naoya Miyashita, Yusuke Oteki, Maxime Giteau, Yoshitaka Okada, Tatsuya Takamoto, Hidenori Saito, Shinichi Magaino, Katsuhiko Takagi, Tetsuya Hasegawa, Takaya Kubo, Takumi Kinoshita, Jotaro Nakazaki, and Hiroshi Segawa
タイトル:
Spectral Splitting Solar Cells Constructed with InGaP/GaAs Two-Junction Subcells and Infrared PbS Quantum Dot/ZnO Nanowire Subcells
雑誌名:
ACS Energy Letters
オンライン掲載日:
2022/7/9
DOI:
10.1021/acsenergylett.2c01380別ウィンドウで開く

用語解説

  • (注1)コロイド量子ドット
    物質のサイズが数何ナノメーター程度まで小さくなると量子サイズ効果により、バルク状態の物性と異なる性質が現れる。量子サイズ効果を利用すると、粒子径を調整することで光吸収領域を変更させることが可能となる。量子ドットの中でも、有機溶媒中に均一分散している量子ドットをコロイド量子ドットと呼ぶ。コロイド量子ドットを利用すると、ディップコート法やスピンコート法などの溶液塗布法で太陽電池を作製することができる。
  • (注2)多接合太陽電池
    吸収波長の異なる複数の光電変換層を組み合わせた太陽電池。多接合太陽電池の構造として、光電変換層を積層したタイプ(図4(b))と、ビームスプリッターを介してセルを配置するタイプ(波長分割)(図4(c))がある。本研究では、III-V化合物2接合太陽電池(InGaP/GaAs)をトップ・ミドルセルとして配置し、ビームスプリッターを介して、ボトムセルとしてコロイド量子ドットを使った太陽電池を配置した3つの光電変換層からなる波長分割3接合太陽電池を作製した。
  • (注3)ZnOナノワイヤ
    酸化亜鉛(ZnO)の直径が数十ナノメーター程度のワイヤ形の集合体。本研究では、混合層を形成するために、約1μmの長さのZnOナノワイヤを用いた。

 

  • 量子ドット太陽電池の断面電子顕微鏡像
  • 図1 量子ドット太陽電池の断面電子顕微鏡像

 

 

  • 波長分割3接合太陽電池構造
  • 図2 波長分割3接合太陽電池構造

 

  • 3
  • 図3 波長分割3接合太陽電池を構成する3つのセルの分光感度(太陽光スペクトルを灰色塗りつぶしで示した。注)太陽光フォトン流を電子数に換算)
  • 4
  • 図4 多接合太陽電池 (a)太陽光スペクトルの光電変換区分の例、(b) 積層型3接合太陽電池、(c)波長分割3接合太陽電池(本研究で採用したタイプ)

研究者

附属産学連携新エネルギー研究施設 特任教授 久保貴哉

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