1. ホーム
  2. ニュース
  3. 先端研ニュース
  4. 温暖化が進むとシロアリによる枯れ木分解が加速する

温暖化が進むとシロアリによる枯れ木分解が加速する

  • 研究成果

2022年10月5日

東京大学先端科学技術研究センター生物多様性・生態系サービス分野の森章教授らの国際研究グループは、世界中の133研究サイトにおいて、生態系-気候系における炭素循環に大きな影響を持つ木材分解プロセスを調べる研究を実施しました。これまで、シロアリが果たす分解者としての役割は、微生物に比べてよく分かっていませんでした。当研究では、気候が温暖化するにつれて、シロアリが木材分解においてより大きな役割を果たす可能性があることを示しました。本研究成果は、2022年9月23日付けでScience誌に掲載されました。

森林は、巨大な炭素貯留庫です。光合成の過程で、樹木は大気中から二酸化炭素を取り除き、樹木内に炭素の有機化合物として貯留をしています。そして、葉や幹などが朽ちて土に還る過程で、多量の有機炭素が土壌中にも蓄積されます。一方で、これらの有機物が分解され無機化されると、分解者である微生物や動物の呼吸を介して、二酸化炭素の形で大気中に炭素が放出されます。そのため、有機物の分解プロセスとその速度は、温室効果ガスとしての大気中の二酸化炭素濃度の重要な決定要因となっています。

特に、「木質リター」とも呼ばれる枯れ木は地球規模の大規模な炭素貯蔵庫であり、その貯蔵庫の大きさは分解者による腐朽分解過程によって決定されています。微生物による木材分解率は、気温と降水量に応じて決まっていることが知られています。大まかに述べると、温度が高いほど、水分量が多いほど、微生物による木質リターの分解速度は速くなります。一方で、木質リターの重要な分解者であるシロアリについては、研究が進んでいません。シロアリは熱帯地方をはじめ、多くの地域の生態系で炭素循環に大きな役割を果たすことが分かっていますが、その温度応答などは未知のままでした。気候変動が炭素蓄積量に及ぼす影響をより正確に推定するためには、シロアリによる木質リターの分解速度の気候感受性を解明する必要があります。

6大陸133地点のデータを調べたところ、シロアリの木質リターの発見・消費は気温に強く影響されること、微生物よりもさらに温度感度が高いことが分かりました。気温が10℃上昇するとシロアリによる分解速度は6.8倍以上も増加しました。例えると、30℃の地域のシロアリは、20℃の地域のシロアリに比べ、約7倍の速さで木材を食べることになります。そして、シロアリの役割は、熱帯季節林、熱帯サバンナ、亜熱帯砂漠で特に大きいことも分かりました。熱帯化に伴い、シロアリが地球上のより多くの場所に生息するようになれば、シロアリの木質リター分解の速度はさらに増加すると思われます。
以上の結果から、温暖化はよりシロアリを活発化させ、その結果として、より多くの炭素が大気中に放出されてさらなる温暖化が進むという正のフィードバック(温暖化が進む悪循環が加速する)の可能性も示唆していると考えられます。

本研究は、環境研究総合推進費(JPMEERF14S11420)の研究助成の支援を受けました。

  •  

図1

図2

図1:実験に用いた木材ブロックの様子。沖縄本島北部、やんばるの森にて。角材を寒冷紗(ポリエステルの袋)に包み入れ、内部にはシロアリが侵入できる/できないといった処理を施しました。2年後に内部に残る角材の重量などから、シロアリの効果、微生物による効果を評価しました。©森章

【掲載論文情報】

著者名:
Amy E Zanne, Akira S. Mori, Kei-ichi Okada, Motohiro Hasegawa 他
タイトル:
Termite sensitivity to temperature affects global wood decay rates
雑誌名:
Science
DOI:
10.1126/science.abo3856別ウィンドウで開く

【研究者】
生物多様性・生態系サービス分野 教授 森 章

【関連リンク】

ガーディアン紙First Dog on the Moonにおいて、漫画としても解説されています。

関連タグ

ページの先頭へ戻る