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RNA修飾と代謝性疾患の関係性
―生活習慣病の新たな治療法や予防法の開発に期待―

  • 研究成果

2023年3月27日

東京大学先端科学技術研究センター代謝医学分野/東北大学大学院医学系研究科の酒井寿郎教授、東北大学加齢医学研究所の魏范研教授、東北大学医学系研究科の松村欣宏准教授は、RNA修飾と代謝性疾患の研究について概説した総説論文を発表しました。本研究成果は2023年3月23日に国際科学誌『Nature Metabolism』オンライン版に掲載されました。

肥満や2型糖尿病などの生活習慣病は、21世紀の世界的な健康問題となっています。2型糖尿病の患者とその予備軍の数は、過去30年間で急速に増加しております。肥満や2型糖尿病は、遺伝的要因と環境要因が複雑に関わり、発症につながります。環境要因として、食習慣、運動習慣、飲酒等の生活習慣があげられます。生活習慣病の効果的に予防するためには、遺伝的要因と環境要因の両方を考慮した統合的なアプローチが必要です。環境要因は細胞内に伝わり、後天的ゲノム修飾(エピゲノム)を変化させます。DNAのメチル化やヒストンタンパク質の化学修飾がエピゲノムにあたります。これまでの生活習慣病の研究では、遺伝子やエピゲノムに着目した研究が中心に行われてきました。しかし、生活習慣病の予防と治療の取り組みは、限られた成功しかおさめていませんでした。

遺伝子が発現するには、DNAの遺伝情報がまずRNAに転写され、その後RNAがタンパク質に翻訳される必要があります。DNAから転写されたRNAは、約170種類もの多様な化学修飾を受けることが知られています。エピゲノムがDNAからRNAへの転写の過程を調節するのに対し、RNA修飾はRNAの安定性、細胞内局在、翻訳の効率を制御することにより、遺伝子発現に大きな影響を与えます(図)。RNA修飾の研究をエピトランスクリプトミクスと呼び、近年RNA修飾と生活習慣病に関する研究が報告されています。本総説論文では、生体内におけるRNA修飾の役割を説明し、RNA修飾と代謝性疾患の研究について概説しました。さらに、環境要因がどのようにRNA修飾を制御するのか、RNA修飾とエピゲノムがどのように関わるのかについて考察しました。

本総説論文により今後のRNA修飾に着目した生活習慣病の研究が加速し、肥満や糖尿病に対する新たな治療法や予防法につながることが期待されます。

酒井教授は「これまでの生活習慣病の研究では、遺伝子やエピゲノムに着目した研究が中心でした。遺伝子やエピゲノムだけでなく、RNA修飾に着目して生活習慣病の研究を行うことで、肥満や糖尿病に対する新たな治療法や予防法につながることが期待されます。」と述べています。

本研究は、文部科学省 科学研究費 基盤研究(A)「シグナル感知エピゲノム酵素による世代を超えた環境適応機構の解明」(JP21H04826)、基盤研究(B)「RNAモドミクスを基軸とする新規核酸生理学の開拓」(JP21H02659)、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「健康・医療の向上に向けた早期ライフステージにおける生命現象の解明」研究開発領域における研究開発課題「生活習慣病予防に働く早期ライフステージの生活環境記憶の解明」(JP20gm1310007)、国立研究開発法人 科学技術振興機構 創発的研究支援事業(FOREST)「RNA修飾が創発する生命原理の理解と応用」(JPMJFR205Y)等の支援のもとで行われました。

  • 環境要因によるRNA修飾と後天的ゲノム修飾の制御
  • 環境要因によるRNA修飾と後天的ゲノム修飾の制御
    環境要因は後天的ゲノム修飾だけでなく、RNA修飾を変化させ、遺伝子発現を調節し、疾患の発症と予防に寄与する。© 2023 東京大学先端科学技術研究所 代謝医学分野 酒井研究室/東北大学大学院医学系研究科 分子代謝生理学分野 酒井研究室、東北大学加齢医学研究所 モドミクス医学分野 魏研究室

【発表雑誌】

著者名
Yoshihiro Matsumura*, Fan-Yan Wei*, Juro Sakai#(*筆頭著者、 #責任著者)
タイトル:
Epitranscriptomics in metabolic disease
雑誌名:
Nature Metabolism
オンライン掲載日:
2023/3/23
DOI:
10.1038/s42255-023-00764-4
URL:
https://www.nature.com/articles/s42255-023-00764-4別ウィンドウで開く

【研究者】
代謝医学分野 教授 酒井 寿郎(さかい じゅろう)

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