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高齢者施設でのVR旅行で視空間能力と頸椎可動域を改善
― 視空間機能障害のリハビリテーションに役立つ可能性 ―

  • 研究成果

2023年4月7日

東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野の宮﨑敦子特任研究員、登嶋健太学術専門職員、檜山敦特任教授らの研究グループは株式会社SOYOKAZEと共同で、認知症の方を含む高齢者施設居住者にVRを活用して旅行を疑似体験できるVR旅行プログラムを提供し、その効果を実証しました。本研究成果は、2023年3月14日付で「Augmented Humans 2023」に掲載されました。

視空間能力とは、環境を表現、整理、理解、ナビゲートする能力です。この能力は、加齢に対して特に脆弱な神経基盤の上に構築されています。更に視空間認知機能は、実行機能と密接に関連していて、視空間認知機能の低下が軽度認知障害や認知症を引き起こす可能性があります。ヘッドマウントディスプレイを使用したVR旅行プログラムは、高齢者に自由な空間探索の機会を提供し、日常生活よりも大きな首の動きを誘導します。従って、VR旅行の体験は、視空間能力の向上と、視空間能力に対する運動機能としての頸椎可動域改善につながる可能性があると仮説を立てました。

本実験では、高齢者施設に居住している平均年齢88.25歳の24人の参加者に対して、VR旅行を体験したグループ(VR介入群)と普段通りに日常生活を送るコントロール群に分け、無作為比較対照試験を実施しました。無作為比較対照試験は、医療分野で用いられる根拠の質(エヴィデンスレベル)の高い研究手法です。離脱しなかった20人を解析の対象とし、視空間能力・頸椎可動域角度を計測、変化量(介入後の得点から介入前の得点を引いて算出)により2群を比較しました。その結果、VR介入群は、コントロール群と比較して、実行機能を伴う視空間能力課題の得点が改善しました。また、頸椎可動域では垂直方向および水平方向で維持・改善しました。

本プログラムを1回30分、週3回のペースで4週間続けた結果、幅広い視覚的探索により、高齢者の視空間能力と頸椎可動域の改善効果を引き出すことが証明できました。また、高齢者の転倒予防のためのトレーニングとしても有用であると考えられ、VR旅行プログラムの提供は高齢者施設において強力なツールになることが示唆されました。

本研究成果は、英国・グラスゴーで開催されたAugmented Humans 2023学会でBest Paper Honorable Mentionを受賞しました。

宮﨑特任研究員は次のようにコメントしています。「高齢者施設では、身体的な機能が低下している方や慢性的な病気を抱えている方、認知症のある方など、あらゆる面で様々なレベルの方がいらっしゃいますが、高齢者の気分や幸福度に関連する旅行体験をVRで継続できました。また、視空間機能障害のある参加者が、実行機能を含む視空間能力課題で改善したことに驚きました。本プログラムが視空間機能障害のリハビリテーションに役立つ可能性があることを示唆しています。VR旅行は、これからも多くの高齢者に世界中の美しい景色や文化に触れる機会を提供し、心身共に健やかな生活を送ることにつながることでしょう」

また、登嶋学術専門職員は「私は長らく介護の現場で働いていましたが、心に残る風景や故郷にもう一度行きたいと思う要介護者は少なくありませんでした。VR旅行はその夢を叶えるだけでなく、ヘルパーやご家族が楽しく会話するきっかけにもなっています。新たなコミュニケーションツールにとどまらず、人肌を感じる温かい福祉機器として発展させていきたいです」と述べています。
檜山特任教授は「COVID-19の影響下で福祉施設内での長期介入評価の実施が難しい中、ようやく実現し、一定の成果を得ることができました。VR旅行を、外出が憚られる状況下においても外の世界や季節の変化を感じつつフレイルを予防する体験として、社会に届けられるようにシステムをブラッシュアップしていきたいです」とコメントしました。

本研究は、株式会社SOYOKAZEの支援を受けて行われました。

  • 視空間能力と頸椎可動域角度の変化量
  • 視空間能力と頸椎可動域角度の変化量(介入後-介入前)
    左:主要評価項目である実行機能を含む視空間能力課題スコアの変化量。右:受動的な頸椎の屈曲可動域角度の変化量。VR介入群がコントロール群と比較して改善した。 ©2023 宮﨑敦子

【掲載論文情報】

著者名:
Atsuko Miyazaki, Takashi Okuyama, Hayato Mori, Kazuhisa Sato, Kenta Toshima and Atsushi Hiyama
タイトル:
Visuospatial Abilities and Cervical Spine Range of Motion Improvement Effects of a Non-Goal-Oriented VR Travel Program at an Older adults Facility: A Pilot Randomized Controlled Trial
雑誌名:
Augmented Humans 2023
DOI:
10.1145/3582700.3582715
URL:
https://dl.acm.org/doi/fullHtml/10.1145/3582700.3582715別ウィンドウで開く

【研究者】
身体情報学分野 特任研究員 宮﨑 敦子

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