1. ホーム
  2. ニュース
  3. 先端研ニュース
  4. 「科学技術で得られた知見が、勝手に世の中をよくするのが理想」渋滞学を用いた社会設計の提案

「科学技術で得られた知見が、勝手に世の中をよくするのが理想」
渋滞学を用いた社会設計の提案

  • 先端研ニュース

2011年2月15日

さる1月23日に西成研究室(渋滞学)が、先端研4号館周辺で大規模な歩行実験を行いました。そこで、研究室の大塚一路さん(リサーチフェロー)と西遼佑さん(博士課程2年生)に同日の実験の様子や研究テーマについてお話をうかがいました。

我々の研究室は、人や車が『混み合う』とどうなるかということを研究しています。その時に、実際の現象をコントロールせずに分析しようとしても様々な要素が混在して何がなんだかわからなくなってしまう。そこで、混雑の一部を切り取って数理で既述できるかどうかをまず考えるのが出発点です。

1月23日の実験では、50名くらいの被験者に4号館のピロティ付近を歩いてもらいました。普通に歩いたり、擬似的な混雑状態を作って心理的なストレスをはかる等の実験を6種類。その動きを点としてビデオで自動解析するために、被験者には白い帽子を被ってもらいました。当日、通りかかった人はテレビ番組の撮影か運動会だと思ったかもしれませんね。

この実験の解析はまだこれからですが、これまでの実感として言えるのは、我々のようにこれまで理論解析を主に取り組んできた研究者は「人間はこうあるはずだ」と机の上で妄想しがちであるということ。「当たり前」だと思っている事前予測ほど間違っていたり、「こんなことやるわけない」って思っていたことに限ってやっていたりするんです。まずは、人を観察することを積み上げて物事をとらえる。計算だけでは到底できないことは、これらの観察結果をうまく還元して計算モデルを作る。その両方をいったり来たりしているうちに何かが固まってくるという感じですね。

その時に、西成先生は「線形と非線形の違い」と表現されますが、同じものを足し合わせて全体を見ても、これらがそのまま大きくなったイメージのことしかやらない。でも相互作用するグループはそれだけではない。我々が紙とエンピツを使って計算できるのは水や砂粒よりちょっとだけ賢いものが集まった動きなんです。人間のように文化の違いなど様々な要素を持っていると、そのからくりを直感的に探しあてることはほぼ不可能に近い。しかし、切り出した素材を一個一個つなぎ合わせたときに、別々だと表現できなかったことが表現できるのが非線形数理なんです。

自分自身(大塚さん)の研究でいけば、渋滞学や経済学を用いてどうすれば人が満足できるかを定量化することがテーマです。例えば通勤電車は混んでいますよね?混雑はいやですよね?でもみんな早く着きたいと思ってその電車に乗りますよね?人が多く乗れば電鉄会社は儲かりますよね?電鉄会社に混雑状況を変えるインセンティブはありませんよね?利用者は誰も幸せになれませんよね?という問題を何とかしたい。政府のガイドラインに、ある一定の密度以上は混雑させてはいけない、という基準を作るのはひとつの案でしょう。でもそれだけでは不十分で、ただやみくもにガイドラインを作っても都市が機能不全になることは目に見えています。その時に渋滞学を登場させて、隙間を作りながらうまく都市機能を働かせるようにする。そうやって、社会設計に何かを提案したいという思いを持っています。

今後は心理学者や脳科学者とのコラボレーションも考えています。短期来日中のStefania Bandini特任教授は「モラル」に関するエキスパートで人の振る舞いに関しての見識をお持ちです。西成先生は内閣府経済社会総合研究所「サービス・イノベーションに関する国際共同研究」において「流通と理学」研究会座長を務めるなど、学際的な研究活動を精力的に行っています。研究室としては、人が不愉快に感じる混雑があったら何でも解析したいという立場なので、先端研所内や東京大学内で「混雑問題」がある場合は是非、西成研究室までお知らせください。""オープンソース""的な発想で、我々の提供した混雑に対する処方箋に対して、皆さんから前向きなご批判なども頂いたうえで、さらによい解決方法を提案する方向に持っていけるといいですね。

我々は何が良くて何が悪いかという価値基準で強く発言したいとは思っていません。「得られた知見をシェアした社会が勝手に良くなって欲しい」という気持ちなんですよね。あるものをポンと提供したらそれが勝手にいい方向に広がってくれればいい。都会から山や川の自然に身をおくとなんか気分が良くなりますよね。でもなぜかは説明できない、そんな社会設計をしたい。「最近イライラしないな、なぜかわからないけど」ってところでたまたま僕らが何かしていればいい、そんな感じなんです。

(インタビュー日時:2011年1月31日)

関連タグ

ページの先頭へ戻る