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人材育成に大学と企業が協力を

研究内容 人材育成に大学と企業が協力を 技術経済論 教授 後藤 晃

近年、科学技術人材の重要性が問われています。国の第3期科学技術基本計画(平成18年-22年)では、特に重要な課題として「優れた研究者の育成・確保」を掲げています。また「相当の対価」をめぐって研究者が企業を提訴するという「職務発明問題」では、研究者の処遇の問題がクローズアップされました。

理工系人材に関する需給ミスマッチが深刻に

2003年の理学博士43%、工学博士36.4%が無業者(文部科学省、「学校基本報告書」)-政府の科学技術人材への期待とは裏腹に、博士課程の修了者が社会で活用される道は狭いのが現実です。企業側は、博士課程の人材は特定の分野に偏向しているため活用が難しいとし、修士卒の学生を採用して社内で教育する傾向にあります。博士課程修了者のうちの7割以上は、企業ではなく大学や公的機関への就職を希望しているといいます。このようなミスマッチが続けば、優秀な人材が活躍する場が整わず、なによりも若い研究者にとって不幸なことですし、日本にとってもったいないことです。

大学院の教育基盤を整えるべき

このような需給のミスマッチを解消するために、博士号を取得する過程での環境・教育をより充実させなければなりません。たとえば、大学側が、大学、企業など幅広い場で自らが研究のリーダーシップを取れる研究者を育成するためのカリキュラムを整えるなどの方策が考えられます。リーダーシップをとれる人材の育成を目指す先端研の「先導人材育成プログラム(PPP教育」は、よい実例でしょう。一方、博士号取得後の研究者(ポスドク)の活躍する場を設けることも大切です。米国では、博士課程の学生やポスドクが給料をもらいながら研究を行っています。このような経験を積むことで、ポスドクは自立した研究者として成長してゆくことができるのです。

研究者は恵まれていないのか?

職務発明問題でとりざたされていたのは、研究者は企業において十分な待遇を得ていないという意識でした。この意識が形成された経緯は不明ですが、理系の人材が文系の人材と比べて相対的に恵まれていないという思いは、研究者に根強いようです。

企業側も協力を

  • インタビューの様子
  • このような状況下、企業は大学の教育への協力を行い、科学技術研究の人材育成に寄与してほしいと考えています。自社に関連の深い技術基盤が大学において維持されることは、大学のみならず企業にとってもメリットがあるはずですし、実際に海外の企業は教育の面で大学と踏み込んだ協力関係を結んで積極的に人材形成に取り組んでいます。英国では、大学院生が大学および企業の指導の下、給料をもらいながら特定の課題に取り組むというKnowledge Transfer Partnership(KTP)という制度や、博士号取得のために企業が財政支援を行い、大学と企業が共同で指導を行うCollaborative Awards in Science and Engineering(CASE)があります。これらは、問題解決能力をもった人材の育成や大学からの知識移転を促進するよい仕組みです。このような制度を参考に、日本でも大学と企業が人材育成に真剣に協力し合う体制が整うとよいと思います。

参考文献:『科学』2006年6月号(岩波書店)

聞き手:小関珠音

(2006年7月4日)

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