グローバルナビゲーションの開始

  1. ホーム
  2. 先端研について
  3. 研究について
  4. 産学官連携
  5. 国際連携
研究について

本文の開始

005:飯田 誠 特任准教授

飯田 誠 特任准教授
 

風力発電は学問の「総合格闘技」
人にも生態系にもやさしい風力発電システムをつくる

飯田 誠 特任准教授
附属 産学連携新エネルギー研究施設

「いま、ここ」に吹く風から、いますぐ使える電気をつくる――。附属 産学連携新エネルギー研究施設の飯田誠特任准教授は、それこそが風力発電の魅力だと語る。「何億年もかけてつくられた、高密度のエネルギー体である化石燃料を燃やして発電するのとは、必要な技術が大きく異なります。風力発電は、地球環境の持続と資源のない日本の未来のために必要な発電技術です」。予測が困難な風から電気をつくり、地域社会にも受け入れられる風力発電システムをつくる。飯田特任准教授は、あらゆる学問分野を「総合格闘技」のように融合させ、風力発電を前に進める。

 

区切り線

世界に出遅れる日本の風力発電

世界で風力発電の導入が進んでいる。世界の風力発電の累積発電量は、2017年時点で5億kW、原発500基分にも達する。伸び率が著しいのは中国だ。2005年ごろから風力発電設備の導入を急激に増やし始め、世界の風力発電を牽引している。
次いで、2000年ごろから風力発電に力を入れていた米国やドイツも設備増強に積極的で、インドがそれに続く。機器の改良により発電効率も高まっており、ヨーロッパでは2027年頃に風力発電が全発電量の主力となると予想され、東南アジアの新興国でも設置が進む。

それと比べると、日本の風力発電は伸びが鈍い。2017年末時点で340万kW、全発電量の0.6%しかない。中国の約1億9000万kW、アメリカの8900万kW、ドイツの5600万kWに比べて圧倒的に少ないのが現状だ。その理由について飯田誠特任准教授は次のように述べる。

「日本でも1990年代の終わりから風力発電ブームが起こり、各地で風車が設置されました。そのほとんどは、ヨーロッパのメーカーから輸入したものでした。日本とヨーロッパでは、気候条件が大きく異なります。気候が穏やかで年間を通じて安定的な風が吹くヨーロッパに対し、日本は台風や雷など気象条件の変化が激しく、発電量の予想が難しい。電力は需要と供給のバランスを常に一定化することが求められるため、安定した電力供給が見込めないとして、風力発電は一時的なブームで終わってしまったのです」

日本特有の電力事情も風力発電の普及を妨げた。ヨーロッパでは多くの国をまたがる電力系統網が作られ、各地の風力発電機はネットワーク化された発電網に組み込まれている。そのため、ある国や地域で風が吹かずに発電量が低減しても、電力系統自体がバックアップとして機能し、国境を越えて安定した電力供給が可能になっている。

ところが日本では、地域ごとに電力会社が分かれており、電力の供給量は基本的にエリアごとに管理されている。それゆえ多くの電力会社は、天候によって発電量が左右される風力発電を電力網に接続することで、電圧が不安定化することを恐れ、風力発電の導入に慎重になったともいわれている。さらに風力発電設備は多くの場合、人里離れた場所に設置されるため、そこまでの送電網を設置するコストを負担することも忌避された。

「かつてヨーロッパから輸入された風車は、風の穏やかなヨーロッパに合わせて設計されていたため、日本の台風や地震などを想定していませんでした。そのため、設置後に故障や事故が相次いだのも、日本で風力発電が普及しなかった理由の一つです。現在は、各種国プロや専門家の努力もあり、ようやく適切な設計条件や運用がなされるようになってきました」と飯田特任准教授は語る。

 

IoTを駆使し風車の故障を未然に予知

そうした過去を乗り越え、日本に風力発電を本格的に根づかせるために飯田特任准教授が取り組むのが、「IoT技術を駆使した風力発電の監視・メンテナンスシステムの研究開発」だ。

「風車の部品の数は約2万点。これは自動車の部品数とほぼ同じです。動く機械は必ず使っているうちに摩擦や熱で劣化します。道を走る自動車が2年に1回、車検でメンテナンスを義務付けられているのもそのためです。ところがこれまで日本の風車は、設置後のメンテナンスが必ずしも十分とは言えませんでした。運用費用が不足していたり、技術や知見を有する人員が不足していたりと、結果、風車は壊れてから修理するのが一般的でした。壊れてからの修理だとお金も人手も多くかかりますし、止まっている間は収入の源である発電もできません。風車の故障を未然に予知して防げれば、長期にわたって運用コストを大幅に下げることができます」

写真1
飯田特任准教授は、振動や温度の変化、発電量を観測するセンサーを風車の駆動系の軸受などに設置。リアルタイムで遠隔地から風車の状態を観測できるシステムを構築した。
 

「たとえば、軸受の温度が上昇して発電効率が落ちていれば、内部のグリースが劣化して摩擦が強まっていると推測可能です。それにもとづいて適切なメンテナンス作業をすれば、故障を未然に防ぐことができます。風車の部品が壊れるパターンをAIに覚えさせ、風車の異変をすぐに察知する試みにも、産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)をはじめ多くの研究者とともに取り組んでいます」

このIoTを用いた風車のメンテナンスシステムの開発プロジェクトは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援のもと、国内43基の風車で実証実験が行われた。そのプロジェクトチームは、東大のほか、産総研や国内軸受メーカー(NTN株式会社)、風車メンテナンス会社(株式会社北拓)などで組織されている。

この実証実験の結果、部品故障の前兆を9割以上の確度で発見することに成功した。また、故障前に部品を交換することで、停止時間の大幅削減にもつながることが確認された。さらに、この実験で収集された風車の観測データをプラットフォームで一元管理し、メンテナンスにあたる作業員がタブレットで確認できる仕組みも構築。それにより、機器点検時間を約40%も短縮することができた。

「この研究成果を、これから全国の風力発電の設備利用率向上につなげていきます。そのために、さらなるデータベースを構築するとともに、このスマートメンテナンス技術の普及を推進していきたいと考えています」と飯田特任准教授は語る。

 

写真2
飯田特任准教授は、風力発電だけでなく波力発電についても研究している。波力も風力と同じ流体である。写真は、世界初の「岩盤掘削式波力発電 ブローホール開発」で用いた風洞試験タービン模型。
 

 

風車の音の発生メカニズムを解明

風車の多くは、自然豊かで自動車や人々の生活音が少ない地域に設置される。そのため、導入直後に周辺住民から風車の風切り音に対するクレームが出ることが少なくない。日本の風車の問題として取り上げられることが多い「風車音問題」についても飯田特任准教授は科学的な分析を行うとともに、対応策の開発を進めている。

風車音対策を進めるには、音が風車のどこでどのように発生しているかを把握する必要がある。飯田特任准教授らは、2004年にそのための研究を行っている。まず、音の発生メカニズムを明らかにするため、風車周辺の大気の流れ場のシミュレーションを行った。スーパーコンピュータを用いた、計算格子3億点規模にも及ぶ大規模なシミュレーションだ。加えて、風車の周囲に音を観測するマイクロフォンを複数設置し、回転するブレード(風車の翼)がどの位置で音を発生させているかも計測している。

「その結果、風車から発生する音のメカニズムを、実験的にも理論的にも示すことができました。風車の発声音は、救急車のサイレンのようにドップラー効果によって、聞く人の方向と位置により聞こえ方が大きく異なります。実験の結果をもとに、音源分布の違いを数値モデル化することにより、観測位置による風車の音の聞こえ方を正確に予測できるようになりました」

この実験の結果、発生音を低減するブレードの開発が進むとともに、風遮音を予測する知見は、NEDOの「風車音予測手法の開発」にも展開された。それにより、予測精度はさらなる向上が見られた。

風車音が、どこでどの程度聞こえるかを予測できるようになったことで、風車音対策が前に進むことが期待される。たとえば、周辺の民家の位置を考慮して風車の向きを調整すれば、民家での音の聞こえ方は大きく変わりうる。

 

写真3
マイクロフォンアレイが捉えた運転中の風車が発生する音を可視化した画像。風車のブレードの風切り音の聞こえ方と大きさが、観察者がいる位置によって違うことがわかる。©Makoto Iida
 

 

野鳥をAIで検出しバードストライクを防ぐ

風車にまつわるもうひとつのホットトピックが「バードストライク」だ。フクロウやワシなど、猛禽類をはじめとする鳥が風車に激突する問題のことだ。それが希少種であれば生態系に大きな影響を与えることになる。自然保護活動が盛んなアメリカやヨーロッパでも、この問題への関心が年々高まっており、世界的に対策が検討されている。風車はいまや、「人にやさしい」だけでなく、「生態系にやさしい」ことも強く求められるようになっているのだ。

飯田特任准教授はこの問題への対策として、「AIのディープラーニングを用いた、画像認識による野鳥の自動検出」の研究を進めている。情報理工学研究科の苗村教授との共同研究だ。風車にカメラを備え、AIで画像中の鳥を自動認識し、風車側で対策をとることで衝突を回避することを目指している。

「野鳥の画像をAIに大量に覚えさせ、高い精度で、飛翔物体を鳥だと正しく認識できるようになりました。現時点でも世界トップクラスの精度です」

鳥を認識した場合は風車の回転数を自動的に落としたり、鳥が嫌がる周波数の警告音を出したりすることで、バードストライクを回避する。これからさらに、鳥の種までを瞬時に判断できる精度を高めていくのが目標だという。

 

写真4
風車に近づく鳥をカメラが捉えた映像。人力で風車周辺の広範囲を監視することは労力の面で難しく、鳥の検出の自動化が求められている。©Makoto Iida
 

 

高性能な小型風力発電機を開発

飯田特任准教授はこれまでの研究の知見を統合し、風のポテンシャルを最大限活かした風車の開発も進めている。

「風力発電は理論上、風のエネルギーの59%を電力に変換することができます。しかし現状では、45~50%強のものがほとんどです。まだまだ技術的には改善の余地があり、さまざまな風の種類に対応した風車の開発が望まれています」

2006年に飯田特任准教授は、日本の風力発電ベンチャー企業・ゼファー社と高性能小型風力発電機「AIRDOLPHIN(エアドルフィン)」を共同開発した。「AIRDOLPHIN」のブレードには、F1のレーシングカーの筐体に使われている、軽くて強いCFRP(炭素繊維複合材料)が採用された。また、日本の伝統工芸の寄木細工の手法を用い、ネジを使わず頑強で耐候性の高い構造を実現した。この本体重量わずか17.5キロの「AIRDOLPHIN」は、2006年の国内外の発売直後から大きな話題を呼び、国産小型風力発電機として大きなシェアを占める大ヒット製品となった。

「『AIRDOLPHIN』のブレードは、複数の条件を設定したマルチスタガ設計を提案、実装し、さらに、流れを安定化させ風車音をなるべく整えるため、根本から先端にかけてグラデーション状に幅の違う溝を刻み込んでいます。それにより、強い風から弱い風まで、幅広い風速帯で万遍なく高い効率での発電が可能になりました」

 

図5
ゼファー社とともに飯田特任准教授が開発を進めた小型風力発電機「AIRDORPHIN」。微風から強風まで風のスピードに合わせて最適な回転数を実現するために、流体力学計算に基づきブレード部分を三分割して設計した。©Makoto Iida
 

 

「成長の限界」を越えて子孫に誇れる環境をつくる

風力発電の魅力は、「いま、ここにあるエネルギー」を効率的に使える形に変換することにあると飯田特任准教授は言う。

「現在の世界の中心的なエネルギーである化石燃料は、太古の昔の生物が蓄えた太陽エネルギーが、数億年~数千万年の歳月をかけて地中の熱や地殻の重みによって変化したものです。人類はその資源をわずか100年ほどの期間で掘り出して使っています。化石燃料のエネルギー効率が高いのは当たり前なのです。それに対して風力発電は、地球上のどこでも吹いている風という密度の低いエネルギーを、いますぐ使える電力に変換する技術です。化石燃料の持続可能性が懸念される現在、CO2を排出しない風力発電を、これからの日本の主要なエネルギー源の一つにしていくことが重要だと考えます」

 

写真6
シミュレーションなどの実験室で行う研究とともに、飯田特任准教授は日本各地のウィンドファームに足を運び、地域の電力事業者や地元の人々と協力しながら、その地に最適な風力発電システムの導入を続ける。
 

風力発電の研究開発には、流体力学や機械工学、電気工学、情報工学、気象学、環境学など、理工系分野の知識が総合的に必要となる。さらに、風力発電システムが社会全体に受け入れられるようにするには、単体の発電効率だけではなく、電力系統のネットワークを整えるとともに、安全性や風車音対策、バードストライク対策など、さまざまな問題を解決していく必要がある。

「そうした課題解決のためには、理工学以外にも、住民との合意形成や政策的な観点も必要です。電力事業者やメーカーなどの企業とも協力し、再生可能エネルギーの導入にインセンティブが働くような、経済や行政との関わりも必要となってきます。風力発電の研究は、あらゆる学問分野の『総合格闘技』であり、研究者以外の多くの人とコミュニケーションをとりながら社会実装を進めていくところが大きな醍醐味です」

1972年、スイスのシンクタンクであるローマクラブは、「成長の限界」という研究論文を発表した。そこで、「このまま人口増加や環境汚染が続けば、資源の枯渇や食糧不足によって、人類は100年以内に成長の限界を迎える可能性がある」と警鐘を鳴らした。飯田特任准教授の研究を支える信念には、この「成長の限界」の警鐘を打破し、「持続性」を獲得したいという思いがある。

「『成長の限界』のなかには、多くの人間が近い未来、近い空間のことしか考えず、100年先のような『遠い未来』については思いを巡らせない、という話が出てきます。しかし今のことだけを考えて将来の予測を誤れば、その影響は確実に僕たちの子どもや孫の世代に波及します。だからこそ、いまここで、風力発電をはじめとする再生可能エネルギーを大きく育てていきたいと考えています」

 

区切り線

飯田 誠 特任准教授

飯田 誠(いいだ まこと)

2001年3月、東京大学大学院工学系研究科機械情報工学専攻修了。同研究科で機械工学専攻助手、電子情報工学助手、総合研究機構特任講師を歴任。2008年に教養学部教養教育高度化機構特任講師に就任後、2010年より現職。専門分野は、環境エネルギー工学(風力発電全般)、機械・制御工学、流体力学、流体工学、シミュレーション学、ヒューマンコミュニケーションメディア学(複合現実感、拡張現実感、センサネットなど)。国内外風力標準化委員、IEA Wind委員、八丈島地熱拡大検討委員会委員長、秋田県新エネルギー産業戦略策定委員などを務め、世界や地域を舞台に、再生可能エネルギーを利活用する活動に積極的に取り組んでいる。

サイト情報の開始

page top

Copyright (c) RCAST, The University of Tokyo