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第14回 合成生物学 分野 谷内江 望 准教授

谷内江望准教授

先端とは理想を追求することである

サイエンスは贅沢な大人の遊びです。私にとっては子供の頃に床に転がって絵を描いたり、昆虫採集に行ったり、「LEGO」ブロックで遊んだりしたのとよく似ています。またそこに傾ける情熱も「スーパーマリオブラザーズ」を最短時間でクリアするチャレンジをしたり、授業中に教科書の隅を使ってパラパラ漫画を作ったりしたときのものとほぼ同じです。一方で、サイエンスは未来を創造するために様々な責任を果たすプロフェッショナルなビジネスでもあります。仲間を作り、新しいサイエンティストを育て、多くの人々に賛同してもらいながら面白いアイデアを練り、研究を進めます。

サイエンスに大切なのは、研究者がヴィジョンを持って勇敢で自由な発想を生み出せる仲間達と空気感であり、またコントロールを効かせてプロジェクトを打ち上げ、きちんと着地させられるプロフェッショナルの技能と環境です。

2014 年の7 月に先端研でスタートしたばかりの私達の研究室は、生物学と情報科学の両方をバックグラウンドに持ちます。そのミッションは、合成生物学やデータマイニング技術などを駆使して分子・細胞計測と設計のための新しい実験・テクノロジーを創出することです。超並列DNA シーケンサー、分子バーコード、ゲノム編集技術などを組み合わせて「高速な細胞内分子間相互作用測定」「細胞分化・発生系譜の大規模一斉トラッキング」といった新しいテクノロジーを開発しています。これまで観察不可能であった生命科学現象にどんどんアクセスできるようにすることで、新しい生命科学・医学研究のコンセプトを作っていく事が目標です。また、そのような人材を世界にどんどん輩出することも狙っています。

私はテクノロジーの開発者として、一見小さくて地味でも芯があって見通しの利いた仕事は大きく世界を変化させることができると信じています。そのような切れ味の良い国産テクノロジーを生み出していけるチーム作りを目指しています。また、研究者個人が起こすそのようなリープフロッグ(跳躍)は、異分野を恐れずに世界中の研究にアンテナを張り、心の豊かさを携えた合理的なマネジメントによって、限界まで切り込んでいったときに生まれるとも信じています。

研究室の環境基盤はフラットな人間関係です。学部1年生達も参加しており、誰もが研究室運営について考えてくれます。最近ある学生が「実験スタート前に、朝食を摂りながらラボミーティングをしませんか?」と提案してくれました。毎週の担当者が通勤・通学途中にあるパン屋さんを調査して全員の軽食を用意し、ラボのエスプレッソマシンでコーヒーを入れてディスカッションするということになりました。とびきりのアイデアとそれを着地させるまでの一連の流れが、様々なバックアッププランと同時に次々とホワイトボードに描かれ、半ば熱狂とともにプロジェクトがスタートする。途中多くのハードルにぶつかるが、それらをプロフェッショナルな知恵と技術を蓄えながら、仲間達と汗をかきながら乗り越えて未来を変えて行く。そんなプロジェクトを多く生み出したいです。

私自身も若い研究者ですが、研究室の運営者としてこの理想を崩さず追求することが、たくさんの友人達と良いサイエンスの「先端」を創っていく方法だと考えています。

(2015年2月)

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