1. ホーム
  2. 研究について
  3. リレーエッセイ 先端とは何か
  4. 第18回 光製造科学 分野 小谷 潔 准教授

第18回 光製造科学 分野 小谷 潔 准教授

小谷 潔 准教授

先端研にてファッションの先端にも思いを馳せて

世の中の革新的な変化は時として、卓越した少数の人間によって起こされる場合があります。もしも自分がそのような変化を生み出すことができ、しかもそれが気心の知れた大学時代の仲間とであれば、どれほど素晴らしい体験でしょうか。

1985年、ベルギー・アントワープ王立芸術学院の卒業生6名がロンドンで合同のファッションショーを行いマスコミの注目を集めました。6名のデザイナーはそのショーを契機に「アントワープ6 (Antwerp Six)」と呼ばれ称されることとなり*、やがて世界のモードを牽引していく存在にまで登りつめます。そして、アントワープ王立芸術学院もまた世界的なデザイナーを輩出する名門としての評価を高め、現在に至ります。

私たちが日々従事している研究活動とファッションクリエイションとの詳細な対比はさておくとしても、研究の世界においても先見の明に長けた少数の研究者が革新をもたらすことが多々あります。先端研は様々なバックグラウンドを持つ研究者が集まり日々最先端の研究に従事する組織ですので、分野横断型の革新的な研究や新しい学問の潮流を生み出すのに適した組織といえると思います。

私たちの研究室では、複雑な生体反応のメカニズムを読み解く基礎研究に始まり、福祉機器や生体検査装置の開発までの 幅広い領域を手掛けております。そのような研究を進めるにあたって、他分野の研究者と議論するための共通基盤としての横糸の熟成を意識してまいりました。

現在私たちの研究室には「計測工学」と「数学」の2本の 横糸があります。計測の魅力は最先端の未知の情報に触れることができる点にありますが、情報をどのように抽出し処理するかにおいて、多くは工学・情報学に基づいたハードとソフト両方の戦略が必要とされます。そして計測は科学の至るところで必要とされるため、コアとなる技術は私たちの実験系や生体計測を超えたところにも応用できる可能性があります。

また、私たちはここ数年、生命現象を見通しよく記述し理解するための数学の道具作りに取り組んできました。カオスや確率微分方程式の例を挙げるまでもなく、数学は世の中の現象に対して新しい視点を提供することで革新の源となりうる学問です。複雑な生命現象を様々な時空間スケールで観察しますと、従来技術では見通しの良い理解が得られない場面に多々遭遇します。そのため、生命現象を扱うための数学理論を深め、新しい切り口を構築することを目指しております。数学もまた分野横断的な性質を持つ学問です。

アントワープ6の彼ら/彼女らのクリエイションは、時に「脱構築」とも評される同年代の感性を共通としながらも、それぞれが独自のスタイルを展開しています。私も先端研という魅力的な環境で計測工学と数学という横糸を用いることによって、他分野の先生との学問の深化に貢献するとともに、自らの研究も新しい方向へ発展させていきたいと考えております。また、先端研の一教員として、下の世代の研究者が新しい潮流を生み出すためのサポートを少しでもできればと思っております。

クールに、ファッショナブルに、時として遊び心も交えながら…。

∗この6名に初期メンバーだったマルタン・マルジェラを含めた7名を 同列に扱うことが多々あります。

(2016年2月)

関連タグ

ページの先頭へ戻る