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第21回 知的財産法 分野 桝田 祥子 准教授

桝田 祥子 准教授

先端”とは、未来との接点である。

今から15年くらい前、弁理士として企業で働いていた頃、私にとっての「先端」とは、日々、研究者・技術者から上がってくる発明について、特許権としての権利範囲を言葉で形にする、その部分のことでした。法律に照らし合わせて、ここから先は「先端」である、という境界を見極めるのが私の役割でしたが、先行する技術との比較において、発明者の見方では、特許法でいう新規性や進歩性を見出すのが難しく思える場合でも、切り口をかえると「先端」となり、うまく特許権にできることもありました。私は、この仕事の経験を通じて、科学技術(発明)に対する様々な見方を学びました。 科学技術の「先端」というのは、見方や対象によって、そう見える場合もあれば、そう見えない場合もあるということを体験したのです。

現在、私は、先端研の中で、知的財産法分野に属する研究をしています。知的財産法で保護すべき対象をどのように法律で規定するか、つまり、上述したような「先端」部分の法的取扱いは、大きな興味の一つです。特許制度では、「先端」に辿り着いた者に対して、その内容をいち早く皆に開示することを条件に、一定期間、「先端」部分に独占権を与えます。そうすることで、世の中で、「先端」と呼ばれる科学技術のほとんどは、秘密にされることなく、広く具体的に公開され、技術の累積的進歩が促され産業が発展する仕組みになっています。他方、一定期間とはいえ(現行法では特許出願日から20年間)、特定人に独占権を与えることは、対世的な影響が大きいため、色々な工夫や配慮が必要となります。科学技術は絶えず進化し、その「先端」は、大なり小なり時々刻々と変化しており、時には、既存の特許制度で予定されている範疇から飛び出ることもあります。

例えば、今、医療技術分野では、「細胞」の取扱いが問題になっています。再生医療には「細胞」が不可欠ですが、人為的に得られた「細胞」の特定(または同一性の判断)は、技術的にも文言的にも難しく、特許制度上、これまでの医薬品等の技術と同列に扱おうとしても、全くうまくいきません。あるいは、将来的に、AI医療が 発展すると、「AI」自体やその医療への応用は、新たな法的定義を与えることが必要となるでしょう。新たな科学技術(この場合は「AI」)について、適切な法規制を構築するためには、社会への将来的な影響(例えば、「AI」により、医療行為者の概念が変わるなど)を、よく考えないといけません。基礎となる科学技術は、社会で実用化される数十年前に誕生するのが一般的ですから、それらの「先端」が、どのような未来社会を生み出していくのか、しっかりイメージする必要があります。すなわち、私にとって、「先端」とは、未来との接点である、ということができます。それは、科学技術そのものにおいても、社会を構成する法規制においても、同じです。科学技術の進歩とともに、社会や法規制も変化していきます。様々な視点をもって、「先端」をしっかりウォッチしていきたいと思います。

(2017年2月)

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