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第24回 数理創発システム 分野 西成 活裕 教授

西成活裕教授

先端とは孤独である

先端を走っている瞬間とは、周囲には誰もいない孤独な状態だと思う。もちろんチームでプロジェクトを組んで一緒に先端を走るスタイルもあるが、それでも何かを深く考えている時は、誰でも孤独な瞬間を経験しているはずだ。孤独だからこそ先端なのだが、走り抜くためにはその孤独に耐えられる精神力も必要だ。

ただ、そんなに強い人間ばかりではない。そこで私のお勧めは、なるべく楽観的でいることだ。研究なんてほとんどの場合、うまくいかない。そのたびに落ち込んでいたら精神がもたない。そこで、まあそのうち何とかなるさ、と根拠の無い自信を持つのである。しかし、いわゆる勉強ができる人ほどこれが苦手なようである。頭が良すぎて早々とこれはダメだと見切りをつけてしまい、車線変更してしまうのだ。実は愚直にもそのままダメ元で続けてみると、経験上お宝に出会うことが多い。そこで私は研究室のメンバーに「ダメだと分かって三ヶ月」と教えている。これは、研究をしていてこの方法はうまくいかないと分かったら、そこからあえてその方法で絶対に三ヶ月は続ける、というものだ。もちろん数学的に否定されたものは絶対に無理なので、それは続けても意味がない。しかしそうでない場合、どこかに突破口があるかもしれず、また世界中でそのようにダメだと思ってあきらめた優秀な人が大勢いるはずなのである。その先にある先端の景色を見ることができる人は、案外このような人なのかもしれない。

ただ、その三ヶ月は本当につらい。結果が出ずに焦る気持ちは痛いほどわかる。だからこそ、自分を理解してくれる人が周囲にいる環境が必要なのである。ここ先端研とは、そういう処のような気がする。一騎当千の凄まじい業績を持つ研究者がたくさんいて、そういう人は例外なく孤独を理解していると感じる。権威に追従して研究していると孤独感は軽減されるが、それでは真の先端にはいつまでもたどり着かないと思う。群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い―どこかで聞いたことがあるような言葉だが、こういう人が先端研には多いように思える。そして、そうした達人たちと話すと、上質な情報があっという間に手に入り、それが自分の研究の幅を広げるのだ。したがって、先端は孤独だが、ずっと孤独でいてもいけない。この矛盾のバランスが理解できる人が結局先端を走る人なのだと思う。

そういう意味で、先端を走るためにはコミュニケーション力も大事なのである。最近は高校生相手に講演することも多いが、その際に質問で、「研究者になるには才能が必要ですか」と聞かれたことがあった。それに対して私は「才能よりも大事なことが二つある。それは楽観力と英語力だ」と答えた。孤独を耐える楽観力、そして孤独を分かち合うコミュニケーションとしての英語力である。世界の人と深くコミュニケーションをするには、英語が必須だ。世界のどこかに真に自分を理解してくれる人が必ずいる。私はこれまで何か節目のたびに素晴らしい理解者に助けられてきたが、その多くは外国人であった。

実はもう一つ、先端を走るために重要な要素があると思っているのだが、紙面も尽きたので、それはまたいずれ!

(2018年8月)

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