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第31回 身体情報学 分野 瓜生 大輔 特任講師

瓜生大輔特任講師

先端にとらわれない!

いきなり元も子もないことを言ってしまうが、私自身、ある研究分野とか学問領域の先端に身を置くことにこだわりがない。しかし、このエッセイのバトンをいただいたということは、何かご期待いただいてのこと。この機会に、自分は「どこかの先端」にいるのかを探ってみたい。

試しに私の研究キーワードを検索エンジンに入れてみた。「研究者 弔い」 を入力すると、私の名前もチラッと出るが、他の研究者の方がたくさん出てくる。ところが、これに加えて、「デザイン デジタル」を入力すると、おっと、自分の名前がたくさん!もしかして先端研究者なのか?という期待が膨らむ。一昔前の検索エンジンでキーワードを入れすぎると検索結果が減っていく、あれだ。余談だがさらに「VR」とか「バーチャルリアリティ」と入れると自分の名前が消えてしまう。これはいけない。せっかく「VRの先端」を行く研究室にいるのに、研究してないことがバレてしまう……。

そもそも「弔い研究」という分野はあるようで、ない。私が共同研究などでお世話になっている埋葬・葬送・供養などを扱う先生方のご専門は、宗教学、社会学、文化人類学、考古学、民俗学など、実に多岐にわたる。実は、彼らの中でも(現代社会における)弔いとか弔い方が専門という方は稀有だ。多くの葬送供養研究では故人・死者が主役となる。その中で、弔い研究の対象は遺族をはじめとする残された人々である。

私の博士研究では、Fenestra(=ラテン語で窓)と名付けた「ロウソクに火を灯すと故人が健在だった頃の写真が映し出される鏡と写真立て」をデザインした。そして、作りたてのプロトタイプを「数年以内に身内を亡くした方」に試用いただいた様子を調査・記録した。日常生活のなかで故人を偲び、弔う経験を調査対象とし、かつ、研究者自身で(デジタル技術を駆使した)オリジナルのモノを作って研究する。

弔い研究に情報学的な知見を加える動きは近年活発になってきている。その象徴的存在は、欧米圏で普及が進むオンラインメモリアルだ。亡くなった方のFacebookアカウントが「追悼ページ」として使われる仕組みがある他、専用のオンラインメモリアルサービスも登場している。デジタルメディアを介した、あるいはオンライン上での弔いはもはや当たり前の時代になりつつある。

私は、故人に関する情報や故人を偲ばせるデータなどを総称して「故人情報」と呼び、故人情報を扱うためのデザインを「故人情報デザイン」と呼んでいる。デジタルデータを可視化するためにはなんらかのデザインが必要だ。故人情報は、残された人の心の支えになりうる。しかし、悲しみを助長するものとなったり、故人の尊厳を損なってしまう場合もある。すべてはデザイン次第なのである。

このように、私は、さまざまな分野や研究領域からヒントを得て、組み合わせながら研究をしている。しかし、どの分野においても先端にはいない。数年前に、ある情報学分野の権威の先生と「就活面談」した時に「君がやってるのは(メディア)アートだね!(うちでは要らないかな!)」と笑われたことがある。人文科学系の先生方にお会いしても「君は違う分野だから」と言われ、仲間に入れてもらえないこともしばしばだ。その点、先端研は実に寛容で「検索結果が少ない」研究をする者にもチャンスを与えてくれる。

既存の先端にとらわれないことで、いつのまにか何か新しい「先端」を作れればと思っている。

(2020年9月)

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