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第34回 先端アートデザイン分野 吉本 英樹 特任准教授

吉本 英樹 特任准教授トゲトゲの惑星

つい先週、1歳半になる娘が、ようやく歩き始めた。同級生の中ではかなり遅い方なので多少心配していたのだが、ひとたび歩き始めれば、なんのその、毎日スタスタ上手に部屋を闊歩している。一年前は、ようやく寝返りをマスターしたくらいだったのに。子供の成長を見ていると、一年もあれば、本当に色んなことが出来るようになるんだなぁ、と考えさせられる。自分も今から何か全く新しいことを始めても、一年くらい真面目にやれば、けっこう出来るようになるんじゃないかなと自信がつく。

この一年間、何か新しいことを出来るようになったかな、と考えると、スキルを獲得したかどうかはさておき、人生のターニングポイントといえる一年だった。神崎所長との出会いがあり、先端研に着任し、先端アートデザイン分野(AAD) が発足し、10年以上住んだロンドンを離れて日本に帰ってきた。たくさんの新しい方々に出会い、新しいアイデアに触れて、これまで自身の会社でやってきた仕事の延長だけでなく、先端研という環境を存分に活用して、まったく新しいことにチャレンジしたい、という気持ちが沸々としている。

AADでは、社会連携研究部門を設置し、9社の連携企業から派遣頂いた協力研究員の皆さんが展開する16プロジェクトが並行して進められている。毎週のセミナーでは、感動とは何か、美とは何か、といった掴みどころのない難しい問いを、何度も繰り返し議論している。こういう話が先端研という場所で議論されて、色々な先生方からも意見を頂き、そのインスピレーションを元にまたデザインに還元していくというのが、AADならではのアプローチだと感じている。

加えて、私自身が企画したプロジェクトとして、幾つか新しい案件を進めている。一つは、紙媒体とデジタルメディアを接続する方法をデザインし、新しいメディア体験を提案するもの。また一つは、(私が航空宇宙工学出身ということもあって) 編隊制御される複数のドローンが空中で新しいサービスを展開するようなシステムの開発。またもう一つは、日本各地の伝統工芸と最先端テクノロジーを掛け合わせた新しい工芸技法の開発、そして先鋭的なデザインによる新しい工芸商品の開発。さらには、三年前に太陽電池をキーマテリアルとしたアート作品を発表したのだけど、先端研で再生エネルギー研究のフロンティアに触れて、太陽電池のアートをさらに深堀りしたいなぁ、とも思っている。いったい私の専門はどこにあるんだ?と自分でも言いたくなるのだけど、デザイナーが手がける対象は万物に至るので、面白い!と思った企画は、ついつい領域を問わず手を出してしまう。クリエイティブとテクノロジーの融合ということだけ、柱として守っている。

さて、先端とは。高速で突き進むベクトルの、その先の先の先っぽ、というイメージで、先生方の研究はまさに、そのような場所にあると思う。先端研は、あらゆる方向に向いたそういうベクトルが何百、何千と集まって、トゲトゲの惑星のような、というかウニのような (!?)、ともかくトゲトゲの球体という感じがしている。私が数本、全然違う向きのトゲトゲを足したっていいわけで、私にとっては、この安心感がとても重要である。新しいことにどんどんチャレンジできる環境、それが先端研を先端たらしめているものだと思う。改めて、いい所に来させてもらったなぁと思うし、存分にトゲトゲしたい。

(2021年9月)

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