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「拡張される身体」稲見研究室編  広報誌『RCAST NEWS』
114号掲載

  • 先端研ニュース

2021年11月17日

テクノロジーの進化によって、顔認証や電子決済、そしてさまざまなオンラインサービスが開発され、社会環境が大きく変わっています。実は、私たちの身体にもこの大きな変化が起こります。サイボーグやアバターなど、テクノロジーによって人間の身体能力、認知および知覚能力が拡張されるとき、そこにある未来の社会とは?人が、身体や空間、時間などさまざまな制約から解放された社会の鍵を握る2つの研究プロジェクトをご紹介します。

身体を自在化する

ERATO
稲見自在化身体プロジェクト(2018年4月~2023年3月)

自在化身体プロジェクト超感覚、超身体、幽体離脱・変身、分身、合体

「自在化」という技術は、人間がロボットやAIと「人機一体」となり、人がそれらを自分の身体のように自由自在に扱い、行動することを支援することで、人間の行動の可能性を大幅に広げると考えられています。ここでは、ただ新しいことができるようになるだけでなく、自分自身の能力が高まったように感じることが重要です。『稲見自在化身体プロジェクト』では、高度に情報化が進んだ社会における身体感のあり方、そして、デジタル機器が生活インフラとなった現代の進化系である「超スマート社会」で私たちの身体性をどのように「編集」するのかについて、身体・行動のシステム的な理解をベースに、VR、ヒューマンアシスティブロボット、機械学習などを様々な知見を用いて実社会とバーチャルにおいて検証しています。「現在の情報社会に適応する」ことを目指すのではなく、「多様な個性が尊重されるスマート化した社会環境」の実現を目指します。

ERATO
科学技術振興機構(JST)が実施する基礎研究を推進する研究支援活動です。社会・経済の変革をもたらす科学技術イノベーションを生み出すことを目的とし、公募で選出された研究総括を中心に、組織を越えて参加する研究員を中心とした5年間の時限プロジェクトで、10~15年後に新たな科学技術分野への展開や、新産業の創出を目指します。『稲見自在化身体プロジェクト』は、稲見昌彦教授(身体情報学分野)を研究総括とし、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、豊橋技術大学、電気通信大学の5拠点の研究者からなる3つの研究グループが連携しています。

プロジェクトグループ

  • 自在化身体プロジェクト各グループがカバーする領域

    図1.自在化身体プロジェクト各グループがカバーする領域

  • 各グループでの研究とグループ間を横断して幅広い領域における研究開発を行っています

    Group1 自在化身体構築グループ
    身体・行動のシステム的な理解に基づく、バーチャルリアリティ、拡張現実感、ウェアラブル技術などを援用した人間拡張のための研究開発と社会実装を行う。

    Group2 システム知能・神経機構グループ
    脳機能イメージングや機械学習などに基づいた自在化身体を支える神経機構の解析、編集された身体性の表現の解明、感覚一運動連関の最適化に基づく可制御性の向上を行う。

    Group3 認知心理・行動グループ
    認知心理学に基づいた自在化身体がもたらす心理と行動変容の検証、人間の認知と振る舞い、生理反応の解析を行う。

    Group4 バーチャル身体構築グループ
    バーチャル環境で自在な身体操作を実現する基盤技術の開発および実環境の複数ユーザの身体情報の計測を行い、バーチャル環境での共有身体の操作を実現を目指す。

    Group5 自在化身体調査研究グループ
    フィールドワーク、ケーススタディ、市場調査などを通じて、自在化身体に対する 社会的要求と社会実装の可能性を明らかにする。

これまでの研究展開

  • 図2.自在化身体に関するこれまでの研究展開
  • 図2.自在化身体に関するこれまでの研究展開
  •  合体
  • 合体
    ロボットやアバターを操ることで、時間や空間を共有して協調的な作業や互いのサポートを行う。(離れた人同士が作業空間を共有し、装着型ロボットアームを操作して作業を行う)

    • M. Y. Saraiji, T. Sasaki, R. Matsumura, K. Minamizawa, M. Inami: “Fusion: full body surrogacy for collaborative communication”, in ACM SIGGRAPH 2018 Emerging Technologies, pp.1–2 (2018)
  •  分身
  • 分身
    一人の人間が異なる時間・空間的で作業を行ったり、複数のロボットやアバターを同時に操作可能とする技術を探る。(「着脱可能な身体」の触覚フィードバックを利用して物理空間での分身作業を支援)

    • Y. Iwasaki, K. Ando, S. Iizuka, M. Kitazaki, H. Iwata: “Detach-able body: The impact of binocular disparity and vibrotactile feedback in co-presence tasks”, IEEE Robotics and Automation Letters, Vol.5, No.2, pp.3477–3484 (2020)
  • 幽体離脱・変身
  • 幽体離脱・変身
    物理的な自分自身の所在地や外観を超えた活動の支援、「自分自身と思える範囲の境界」の解明およびその境界を操作するのに必要な感覚、フィードバックの検討を行う。(通常より長い腕を持ったときの身体所有感、行動変容を探る)

    • R. Kondo, S. Ueda, M. Sugimoto, K. Minamizawa, M. Inami,M. Kitazaki: “Invisible long arm illusion: Illusory body ownership by synchronous movement of hands and feet.”, in ICAT-EGVE, pp.21–28 (2018)
  •  超身体
  • 超身体
    新たな人工的部位や能力を獲得した人間が、それらをどのように使いこなし、行動が変容するか等を探る。(第3、第4の腕や、6本目の指を工学的に実装)

    • G. Gourmelen, A. Verhulst, B. Navarro, T. Sasaki, G. Gowrishankar, M. Inami: “Co-limbs: An intuitive collaborative control for wearable robotic arms”, in SIGGRAPH Asia 2019Emerging Technologies, pp.9–10 (2019)
    • K. Umezawa, Y. Suzuki, G. Gowrishankar, Y. Miyawaki. "Bodily ownership of an independent supernumerary limb: An exploratory study", bioRxiv (2021).
  • 超感覚
  • 超感覚
    人間の感覚能力を拡張し、身体特性上、知覚・認知が困難な情報をも感じ取れる状態を目指す。(複数の回転型接触子によって使用者の皮膚に情報を伝える触覚ディスプレイ)

    • A. Horie, H. Shimobayashi, M. Inami: “Torsioncrowds: Multi-points twist stimulation display for large part of the body”, in ACM SIGGRAPH 2020 Emerging Technologies, pp.1–2 (2020)

自在化社会への展望 ~「自動化」から「自在化」へ~

人間がやりたくないことはロボットにやらせるのが「自動化」。一方「自在化」は、人が身体的な特徴や制約に拘らずやりたいことを自在にできること。例えば、運転免許を持っていない人や車の運転が好きではない人は「自在化」で技術を獲得できる社会が「自在化社会」であり、そこではこれまでにない経験や価値が提供されます。

  • 自在化身体プロジェクト各グループがカバーする領域

    図3. 自在化身体研究・開発に関わる諸分野

  • 1. スポーツへの応用
    人間の身体能力を拡張することで自在化身体を駆使して行う新しい競技などが生まれ、新しいスポーツの楽しみ方が生まれる。また、アスリートはフォームの可視化など自己の身体運動を正確に把握し、かつ体幹のブレを即座に認知し補助するといった自由自在に制御することが可能になる。

    2. リハビリテーション
    身体運動を可視化し適切に制御するための自在化技術はリハビリテーションへの応用も期待される。例えば、脳卒中の後遺症の一つである片麻痺状態のリハビリテーションにおいて、理学療法士による介助と同じような手順・実践ができる自在化技術開発が考えられる。

    3. 身体動作をともなう芸術表現
    事故で手を失ったドラマーが専用装置をつけ筋電入力で演奏するような本来の芸術表現を補う方向と、第3の腕を装着したドラマーによる通常では叩けない太鼓の同時演奏のような身体の制約を超えた全く新しい表現を作る方向性があり、認知や動作の速度限界を超えた超感覚的なアプローチが考えられる。

    4. 人生最期の日まで自在に活躍
    高齢で寝たきりになっても人生最期の日までバーチャル外出をしたり、機械の手足を身につけて物理的な外出を行うなど、高齢によって肉体的制約を受け、全ての身体機能が健常者と同等ではなくなっても、社会の中で活躍し続けるための様々な自在化技術を各自のモチベーションに合わせて選択可能になる。

    5. 倫理的課題の検討
    人工知能やロボットと同様に、自在化社会に近づくにつれて倫理的な課題や法整備が必要になる。パーツをなくした時の安全性などの問題提起もすでにある。人工的な身体パーツを装着した際に人間の脳機能に及ぼす変化、発育途上の若者が自在化技術を獲得することに関する功罪など、継続的な研究と議論が必要となる。

  • 稲見 昌彦 教授
  • 未来の身体とは?

    お年寄りや体の不自由な人そして不器用な人でも、服を着替えるように様々なスキルや“身体”を身にまとうことで、やりたいことを自在にできるようになるでしょう。年を取るほどにできないことが増えるものですが、技術の力によりできることが増え、なりたい自分になれることで、未来に希望を持てるような自在化社会を目指したいと思います。

    研究統括 稲見 昌彦 教授(身体情報学分野)

     

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