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持ち運び可能な高出力のロッド状触覚デバイスを開発
~VRや生活支援への応用に期待~

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2018年8月9日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

1.発表者:

佐々木 智也
(東京大学 先端科学技術研究センター 学術支援専門職員)
檜山 敦
(東京大学 先端科学技術研究センター 講師)
稲見 昌彦
(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)

2.発表のポイント:

  • ロッド(棒)状の左右に複数のプロペラユニットを取り付けることで、空中での並進や回転方向の力提示が可能な触覚デバイス「LevioPole(レビオポール)」を開発しました。
  • 装置を床や壁に固定しない非設置型の触覚デバイスのための新たな力提示手法を提案しました。
  • VRやARコンテンツでの体験提供、実世界での歩行ナビゲーションのような生活支援技術としての応用が期待できます。

3.発表概要: 

従来の触覚デバイスは、装置を地面などに固定する設置型と、使用者に取り付ける非設置型の2種類に大きく分類できます。非設置型は可動範囲が広いため、全身運動に連動したコンテンツに使用可能です。しかし、非設置であるがゆえにデバイスのサイズや出力が制限され、触覚提示できる出力には限界がありました。
東京大学 先端科学技術研究センター 佐々木 智也 学術支援専門職員、土屋 慧太郎 学術支援専門職員、檜山 敦 講師、稲見 昌彦 教授、東京大学学際情報学府 リチャード ハルタント 大学院生、国立成功大学(台湾)のKao-Hua Liu大学院生らによる研究チームが開発した触覚デバイス「LevioPole(レビオポール)」(写真1)は、ロッド状のデバイスの両端にマルチローターユニットを搭載することで、プロペラによって発生する推力を用いて力を提示するところに新規性があります。それぞれのプロペラを個別に制御することで、並進方向と回転方向の推力を生成して触覚提示が可能です。デバイスは、ブラシレスモーター、スピードコントローラー(ESC)、プロペラ、バッテリー、IMUセンサーを内蔵しており、持ち運び可能な非設置式の触覚提示を実現しました。
開発した触覚デバイスは、さまざまなVRコンテンツでの触覚提示に使用できるだけでなく、実空間でも力提示が可能なため、歩行ナビゲーションなどの生活支援技術としての応用も期待できます。
本成果は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「稲見自在化身体プロジェクト」(課題番号:JPMJER1701、研究総括:稲見 昌彦)によって得られたものです。プロジェクトでは、人間がロボットやAIと「人機一体」となり、自己主体感を保持したまま行動することを支援し、人間の行動の可能性を大幅に広げる技術の創発を目指しています。
本研究の成果は、2018年8月12日にカナダのバンクーバーで行われる国際学会「SIGGRAPH 2018」にて発表します。

4.発表内容:

従来、ヒューマンコンピューターインタラクション(HCI)の研究分野において、インタラクションのための道具の開発は、人間とコンピューターとの関わり方に直接影響を与える要素として認識されています。また、テクノロジーを用いることで人間の身体能力の拡張を目指す「人間拡張工学」においては、コンピューターとの対話に限らず、道具の進歩が人間と世界との境界を変化させる役割を果たすと考えられています。例えば、全身を用いたインタラクティブなゲームのために近年開発されたMicrosoft KinectやNintendo Switchといったデバイスは、バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)と結びつき、当初想定されたゲーム用途以外にもスポーツ、メディアアート、教育、学術的な計測・実験などに新しい展開をもたらしています。このようなインタラクションのための道具や技術は今後も社会で重要性を増していくと考えられます。

全身を用いたインタラクションの設計では、映像や音声のフィードバックに加えて触覚の情報がより重要になっています。しかし、既存の方法による触覚の提示は、デバイスの機構や使用状況に制約がありました。例えば、物体の重量感や物同士の接触感を空中で提示するには、デバイスの一部を壁や床に設置したものが有効ですが、身体の動ける範囲を制限してしまいます。このような可動範囲の問題を解決するため、擬似触覚を用いたウェアラブルデバイスの研究も行われています。また、空中での触覚提示の別のアプローチとして、ドローンのような無人航空機(UAV)を使った研究があります。

本研究で開発したデバイスは、全身を用いたインタラクションにおけて新しい方法で空中での触覚提示を実現します。全長約1mのロッド状のデバイスは、両端にマルチローターを取り付けることでプロペラにより推力を発生させ、それぞれのプロペラを個別に制御することで並進方向や回転方向の力を生成し、触覚を提示することが可能です。また各プロペラの出力をプログラムにより短時間に個別制御することで、特徴的な触覚パターンを提示することもできます。その他の特徴として、1) 棒状の単純な形は持ち方や動かし方などを直感的に理解しやすい、2) ローター可動部には直接触れないため安全である、3) さまざまな触覚パターンを本デバイスのみで提示できる、といった利点があります。

開発したハードウェアは、ロッドと左右両端に取り付けたマルチローターユニットで構成されています。基本的な電子部品はUAVに使用されるものと同様で、ブラシレスモーター、スピードコントローラー(ESC)、プロペラ、バッテリー、IMUセンサー、マイクロコントローラーなどを使用しています。全ての部品がデバイスに内蔵されているので、容易に持ち運びが可能です。デバイスはPCとシリアル通信を行います。
本デバイスは、頭部装着ディスプレイ(HMD)と組み合わせることで、VRコンテンツ内での全身を用いたインタラクションによる触覚フィードバックも実現できます。例えば、VRゲームのコントローラーとしてバーチャル物体に触れた際の触覚の提示(写真2)ができます。また、VRやARコンテンツに加え、日常の活動と組み合わせることができます。一例として、日常の活動での触覚による歩行ナビゲーションのガイドデバイスといった使用方法が考えられます。

今後は、デバイスを用いたVRやARコンテンツの開発、日常の活動における生活支援のためのアプリケーションの開発や超人スポーツ(注1)向けの開発キットとしての展開を予定しています。また、全身運動時の空中での触覚提示による身体的な反応の変化について科学的な実験を行う予定です。

5.発表について:

雑誌会議名:
SIGGRAPH2018
発表タイトル:
LevioPole: Mid-air Haptic Interactions using Multirotor
著者:
Tomoya Sasaki*、Richard Sahala Hartanto、Kao-Hua Liu、Keitarou Tsuchiya、Atsushi Hiyama、Masahiko Inami
DOI番号:
10.1145/3214907.3214913別ウィンドウで開く

6.問い合わせ先:

<研究内容に関するお問い合わせ先>

東京大学 先端科学技術研究センター
教授 稲見 昌彦

<JST事業に関すること>
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部
内田 信裕

7.用語解説:

(注1) 超人スポーツ:人間の身体能力を補綴・拡張するテクノロジーを用いて「人と人のバリアを超える」ルールデザインや時代に対応した競技を生み出す、新しいスポーツ分野。

8.添付資料:

図1
写真1:LevioPole(レビオポール)の概観
図2
写真2: VRコンテンツ例

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