生態系の長期的安定性を「予測」する新理論を確立
―わずか1年のデータから数十年の安定性を解明、気候変動への適応に光―
- 研究成果
2026年5月12日
東京大学
発表のポイント
- 長年にわたる混同を解消:これまで曖昧だった生態系の「時間的安定性」「レジリアンス」「回復(リカバリー)」「抵抗性(レジスタンス)」を数学的に分離し、レジリアンスを評価する新モデルを開発。論文が2026年5月6日付「nature」誌にてオンライン公開された。
- 短期から長期を予測:生態系の安定性は、回復の速さに関わらず、主に短期的な「抵抗性」に依存することを解明。わずか1年の攪乱データから、数十年にわたる安定性を予測可能にしたと同時に、長期的な時間的安定性と短期的な抵抗性が、しばしば相互に予測可能であることも明らかにした。
- 25年の長期実証:世界最長の生物多様性実験(BioDIV)のデータを使い、気候変動下での食料・炭素吸収機能の維持に不可欠な「生態系の安定性」の予測理論を実証した。
概要
ミネソタ大学のフォレスト・イズベル准教授、東京大学先端科学技術研究センターの森章教授らを中心とする国際研究チームは、生態系の「時間的安定性」や「レジリアンス」が、撹乱に対する「抵抗性(レジスタンス)」と「回復(リカバリー)」からどのように導かれるかを解明する新たな理論を確立しました。
本研究は、森教授が2011年の東日本大震災直後から指摘してきた「攪乱を受けても動かない『抵抗性』と、変化を許容し存続する『レジリアンス(頑健性)』は別物である」という視点と、2015年のnature論文で示した「生物多様性は抵抗性を高める」という成果を統合するものです。13年にわたる議論とデータ検証を経て、「短期的な反応から長期的な安定性を予測する」という生態学の難題に科学的な答えを示しました。
気候変動により、干ばつや豪雨など強度が大きく頻度が低い気候の極端現象(エクストリームイベント)が頻発する中、生態系が提供するサービス(農作物や木材生産など)を安定して維持することは喫緊の課題です。本研究は、わずか1年程度の観測データ(短期的な反応)から、数十年にわたる長期的な安定性をある程度の精度をもって予測できること、またその逆も可能であることを世界で初めて示しました。
発表内容
研究の背景:混同されてきた「レジリアンス」
1973年にC.S.ホーリングが「生態学的レジリアンス(ecological resilience)」を提唱して以来、生態学では「回復(リカバリー)」と「変化を取り込み元の状態に戻る能力(レジリアンス)」がしばしば混同されてきました。森教授らはこの問題に対し、以下のようなステップで研究を深化させてきました。
- 2011年(震災後の提言):東日本大震災後における防潮堤のようなハード面での対策は「抵抗・耐える力(レジスタンス)」であり、変化を取り込む「レジリアンス」とは区別すべきだと警鐘を鳴らした。
- 2015年(多様性の効果):世界各地の46の実験データを解析し、生物多様性が高いほど、極端な気象イベント(攪乱)に対する「抵抗性」が高まることを解明。
- 2026年(本研究): 2015年時点で残されていた「回復(リカバリー)とレジリアンスの数理的な混同」を解消。長期的な安定性の本質が「回復」よりも、むしろ短期的な「抵抗性」によって予測可能なことが見いだされた。
本研究の発見とその意義
- 「短期」と「長期」の橋渡し:相互に予測可能な安定性の指標 本研究の最大の成果は、これまで切り離されて考えられていた「短期的な反応」と「長期的な安定性」を数理的に結びつけた点にあります。このモデルは、ある1回の撹乱(気候の極端現象)に対する「短期的な抵抗性」と、数十年にわたる「長期的な時間的安定性」が、しばしば相互に予測可能であることを明らかにしました。これにより、わずか1年程度の観測データから将来の数十年にわたる安定性を予測することが可能になります。
- 時間的安定性の主要因は「抵抗性」:システムが数十年単位で安定しているかどうかは、攪乱後に「いかに早く戻るか(回復)」ではなく、攪乱の最中に「いかに耐えるか(抵抗性)」から予測できることが分かりました。
- レジリアンスを支える2要素:一方で、攪乱後に元のコンディションに戻す力を示す「レジリアンス」は、「抵抗性」と「回復」の両方に同程度依存することが示されました。
実証実験と今後の展望:世界最長の生物多様性実験
過去から未来を「予見」する この新理論は、米国ミネソタ大学の「BioDIV実験」における25年以上にわたる草原の生産性データを用いて検証されました。特筆すべきは、2002年の極端な豪雨イベントへの短期的な反応から、四半世紀にわたる長期の安定性をある程度の精度で予測できた点です。さらに、過去の日常的な変動データ(安定性)をモニタリングすることで、まだ経験していない将来の極端な干ばつに対して、生態系がどれだけの抵抗性を持つかを予見することにも成功しました。
今後は、抵抗性と回復性の間にあるトレードオフ(一方が高まると他方が弱まる関係)が、システム全体の安定性をどう変えるかについてさらなる研究を進める予定です。
社会的意義と適応的マネジメント 気候変動により気候の極端現象(エクストリームイベント)が頻発する中、農業や林業が提供する生産機能を安定的に維持するために、どの程度の「抵抗性」を確保すべきかを事前に判断できるようになります。これは単なる事後の災害対策を超え、変化し続ける生態系に適応する社会-自然システムの構築に向けた「レジリアンスの概念に基づくアダプティブマネジメント(適応的管理)」の設計に大きく貢献します。

〇関連情報:
「nature掲載の論文: Biodiversity increases the resistance of ecosystem productivity to climate extremes」(2015/10/14)
https://www.nature.com/articles/nature15374
「プレスリリース①【共同発表】生物多様性が気候変動問題の解決の鍵となる」(2021/6/10)
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3578/
「プレスリリース②自然保護区の生物多様性が気候変動の課題解決に貢献する―30by30目標に照らし合わせて―」(2024/9/3)
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20240903.html
発表者・研究者等情報
東京大学
先端科学技術研究センター 生物多様性・生態系サービス分野
森 章 教授
兼:東京大学農学生命研究科・教授
兼:横浜国立大学総合学術高等研究院・客員教授
兼:日本学術会議・連携会員
兼:ドイツ研究振興協会・メルカトルフェロー
論文情報
- 雑誌名:
- nature (2026年5月6日オンライン公開)
- 題 名:
- Predicting temporal stability and resilience from resistance and recovery
- 著者名:
- Forest Isbell*, Akira S. Mori*, Michel Loreau, Peter B. Reich, David Tilman, et al.
- URL:
- https://www.nature.com/articles/s41586-026-10498-4

- DOI:
- 10.1038/s41586-026-10498-4
研究助成
本研究は、環境省「環境研究総合推進費(JPMEERF20234002)」、独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)による環境省「官民連携型研究開発プログラム(BRIDGE)(B25101)」、日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業(科研費)(22KK0102)」の支援により実施されました。
問合せ先
東京大学先端科学技術研究センター 生物多様性・生態系サービス分野
教授 森 章(もり あきら)
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