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廃プラスチックを水と酸素だけで有用な二塩基酸へ
―触媒を一切使用しない新たなプラスチック分解プロセス、ライフサイクル評価でCO₂排出量の削減を確認―

  • 研究成果

2026年7月16日

東京大学

発表のポイント

  • 触媒を一切使用せず、水・酸素・熱のみで、ゴムや汚れたプラスチックなどを含むリサイクル困難な混合廃プラスチックを有用な二塩基酸(コハク酸など)へ変換する新しいプロセスを開発した。
  • 熱水中で生じる微小な液滴の表面で、水そのものが反応性粒子を生成してプラスチック鎖を切断する。触媒を使わないため、不純物による被毒の問題が生じない点に新規性がある。
  • 東京大学が実施したライフサイクル評価により、本プロセスがプラスチック1kgあたり正味で約0.30kgのCO₂削減に相当し得ることが示され、汚れた混合廃棄物にも対応できる新たなリサイクル手法としての貢献が期待される。
図:廃プラスチックを水と酸素だけで有用な二塩基酸へ変換するプロセスの概念図
図:廃プラスチックを水と酸素だけで有用な二塩基酸へ変換するプロセスの概念図

概要

 世界全体で処理能力をはるかに超える量の廃プラスチックが発生しており、2019年だけでも約3億5,300万トンが廃棄され、そのほぼ半分が埋立処分されています。浙江大学(中国)、東京大学、カーディフ大学(英国)の研究グループは、ポリエチレンやゴム、汚れた混合廃棄物などリサイクルが困難なプラスチックを、価値のある二塩基酸(注1)へ変換する簡便な方法を発見しました。本成果は『Nature』誌に掲載されました。
 この方法の驚くべき点は、触媒を一切使用せず、水・酸素・熱だけで変換できることです。溶融したプラスチックを熱水中で攪拌すると微細な液滴に分解され、各液滴の表面が天然の化学反応器として働き、水そのものから反応性の粒子を生成します。これらがプラスチックの長い鎖を切断し、コハク酸などの有用な二塩基酸へと変換します。反応は水道水や海水でも進行し、研究チームはすでに300g規模での変換に成功しています。
 研究チームは環境影響についても検討しました。安全側の(保守的な)仮定を用いたライフサイクルアセスメント(注2)でも、本プロセスは焼却(エネルギー回収)や埋立よりも温室効果ガスの排出が少なく、マテリアルリサイクルに匹敵する環境性能を示しました。汚れた混合廃棄物にも適用できる点で、リサイクルが困難なプラスチックの新たな処理手法として期待されます。

発表内容

 これまで廃プラスチックを有用な物質へ変換する多くの手法は、分解を促進する「触媒」に依存してきました。しかし実際の廃プラスチックには染料・添加物・汚れなどの不純物が含まれ、これらが触媒の働きを妨げ(被毒し)ます。そのため、まず高価な洗浄や選別が必要となり、多くの手法は実験室段階にとどまっていました。本研究は、触媒を用いないことでこの問題を回避しました。「触媒がなければ、被毒するものもありません。水そのものが触媒の働きをします」と、浙江大学の王勇(Yong Wang)教授は述べています。
この着想は、近年見いだされた「ごく小さな液滴に分かれた水は、コップの中の水とは異なる振る舞いを示す」という現象に由来します。液滴の縁では非常に強い電場が水を引き裂き、化学物質を加えなくても反応性の粒子が生じます。研究チームは、水中で攪拌された溶融プラスチックが無数の微小液滴に分かれ、その表面での反応がプラスチックを直接分解し得ることに気づきました。約125 ℃という穏やかな条件下で、ポリエチレンは主に短鎖の酸(主生成物はコハク酸)へ変換され、一連の実験から反応の鍵となる成分が水であることが確認されました。
 本手法は、幅広い素材に対して有効でした。手袋・レジ袋・ボトルキャップなど日常的に使われるポリエチレンは完全に分解され、ポリプロピレンやポリスチレンからはそれぞれ異なる有用な酸が得られました。古タイヤや金属コーティングされた包装材といった処理が難しい廃棄物にも有効で、アルミニウム層は固体として回収できました。一般的な添加物も反応を妨げませんでした。「汚れの付着したサンプルが反応を阻害するのではないかと懸念していましたが、そうはなりませんでした。海水を用いても、二塩基酸は生成し続けました」と、筆頭著者の高瑞良(Ruiliang Gao)氏(浙江大学)は述べています。5 Lの反応器では、細断したレジ袋300gを変換し、生成物を二塩基酸として精製しました。
 技術経済分析によれば、本技術は投資に見合う可能性があります。中規模プラントの建設費は約1億4,400万米ドル、年間利益は約7,200万米ドルと見積もられ、補助金なしでも約3年で投資を回収できる見込みです。小規模なプラントでも採算が見込めるため、大規模な集約施設に限らず、廃棄物が発生する場所の近くに適正規模で設置できると考えられます。
 環境面での根拠は、東京大学で実施したライフサイクルアセスメント(LCA)です。廃プラスチック1 kgの処理について、マテリアルリサイクル・焼却(エネルギー回収)・埋立という3つの一般的な選択肢と比較しました。保守的な仮定の下でも、本手法での1kg処理は正味で約0.30kgのCO₂削減に相当し、排出を増やすどころか削減に寄与することが分かりました(従来製品の代替による削減効果も考慮)。比較として、同量の焼却は約2.11kg、埋立は約0.15kgのCO₂に相当します。本手法は地球温暖化への影響でマテリアルリサイクル(約0.35kgの削減)にほぼ匹敵しますが、汚れた混合廃棄物にも適用できるという大きな利点があります。「我々の結果は、通常は比較的きれいで分別された廃プラスチックにしか適用できないマテリアルリサイクルに匹敵する温室効果ガス削減を、従来は廃棄せざるを得なかった夾雑物などを含む廃プラスチックでも実現できることを示しています」と、東京大学先端科学技術研究センターの醍醐市朗教授は述べています。
 エネルギー消費の観点では、本手法は埋立より明確に優れる一方、焼却によるエネルギー回収や、新規プラスチック製造を避けられるマテリアルリサイクルの方がやや有利です。最悪のケースを想定しても、本プロセスは焼却より温室効果ガスの排出が少なく、全体としてエネルギーを節約できます。残る環境負荷の主な要因は冷却、次いでプラスチック原料、そして酸素供給であり、それぞれにプロセスを改善する明確な道筋が示されています。
プラスチック問題にとどまらず、研究チームは、本手法が「微小液滴」化学を実験室から産業現場へ応用するための初の実用的な道筋であるとしています。水と酸素さえあれば海水でも機能するため、プラスチック廃棄物に最も苦しむ地域にとって実用的な解決策になると期待されます。

図2 :各処理方法におけるCO₂排出量およびCED
図2:各処理方法におけるCO₂排出量およびCED(累積エネルギー需要)の比較(ライフサイクル評価による結果)

関連情報

 醍醐研究室(東京大学先端科学技術研究センター)https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/daigo/別ウィンドウで開く

発表者・研究者等情報

東京大学
 先端科学技術研究センター
  醍醐 市朗(だいご いちろう) 教授
東京大学
 大学院工学系研究科先端学際工学専攻
  王 浩(わん はお) 博士課程学生
※本研究は、浙江大学(中国)、カーディフ大学(英国)等との国際共同研究として実施されました。

論文情報

雑誌名:
Nature
題 名:
Catalyst-free, microdroplet-mediated waste plastic conversion to diacids
著者名:
Ruiliang Gao, Liwei Zhang, Richard J. Lewis, Hao Wang, Zhiyan Pan, Yage Zhang, Zekai Yu, Zhiqiang Liu, Xiaolin Guo, Xiangbowen Du, Wencong Liu, Minghang Li, Shipan Liang, Bing Lu, Ichiro Daigo, Shanjun Mao, Graham J. Hutchings, Yong Wang

用語解説

  • (注1)二塩基酸(ジカルボン酸)
    分子内に二つのカルボキシ基(–COOH)をもつ有機酸の総称。コハク酸などが含まれ、樹脂・医薬品・食品などの原料として用いられる。
  • (注2)ライフサイクルアセスメント(LCA)
    製品やサービスについて、資源の採取から廃棄に至る全過程の環境影響を定量的に評価する標準的な手法。

問合せ先

東京大学先端科学技術研究センター
教授 醍醐 市朗(だいご いちろう)

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