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鉱質コルチコイド受容体系が塩分欠乏時の血圧維持に寄与することを証明

  • 研究成果

2017年10月12日

東京大学先端科学技術研究センターの藤田敏郎名誉教授と広浜大五郎特任研究員(臨床エピジェネティクス寄付研究部門)をはじめとする研究チームは、生体内で体液バランスに関与する鉱質コルチコイド受容体(MR-pendrin)系が、塩分欠乏時に血圧を正常に維持するために重要な役割をしていることを明らかにしました。
本成果は10月11日にアメリカ腎臓学会誌「Journal of the American Society of Nephrology」に掲載されました。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系は生体内で体液バランス保持や血圧調節に重要な役割を担っています。塩分欠乏時には循環血漿中のアンジオテンシンII、アルドステロンが上昇し、腎尿細管でのNaCl再吸収を刺激して体内にNaClを保持することにより、血圧を正常に維持していることが知られています。 これまで、塩分欠乏時に腎臓のCl-/HCO3- 交換輸送体(pendrin)が発現亢進することが報告されていましたが、RAA系によるpendrin活性化機構は明らかでありませんでした。また、塩分欠乏時にはアルドステロンの受容体である鉱質コルチコイド受容体(MR)が活性化し、その結果種々のNa輸送体やNaチャネルが刺激されます。その一つにMR-pendrin系のNaCl再吸収機構の関与が提唱されていましたが、その病態生理学的意義は明らかでありませんでした。そこで本研究では、まずRAA系によるMR-pendrin系の活性制御機構を解明し、更にMR-pendrin系の生体内での役割を明らかにすることを目的としました。

研究チームは、まず初めに、マウスに低食塩食を投与したところ、血漿中のアンジオテンシンII、アルドステロン濃度の上昇と共に、腎臓のpendrin発現の増加を認めました。そこで、MRのリガンドであるアルドステロンを血漿中から除くため、副腎摘出マウスを用いて解析を行いました。副腎摘出マウスにアンジオテンシンIIの単独投与を行うと、MRの脱リン酸化を認めましたが、pendrin発現上昇は認めませんでした。一方、アンジオテンシンII、アルドステロンの同時投与を行うと、MRの脱リン酸化に加えてpendrin発現上昇を認めました。このことから、アンジオテンシンIIにより脱リン酸化したMRに、アルドステロンが結合することではじめてpendrin発現が上昇することを明らかにしました。その結果、塩分欠乏時のpendrin活性化にはアンジオテンシンIIとアルドステロンの両方が不可欠であり、また両者には相乗効果があることも明らかにしました。次に、このMR-pendrin系の生体内意義を明らかにするため、pendrin欠損マウスを用いて血圧測定を行いました。Pendrin欠損マウスは、高食塩下では野生型マウスと同等の血圧を示しましたが、低食塩下では野生型マウスと比較して著明な低血圧を示しました(図)。

以上の結果より、低食塩によりRAA系の活性化した状態では、pendrinが血圧を正常に維持するために重要な役割をしていることが明らかとなりました。これはpendrinの異常活性化が食塩感受性高血圧を発症させ、pendrin阻害剤が新たな高血圧治療薬となりうることを示唆しており、今後のさらなる研究が待たれます。

図1
図:低食塩下での野生型マウスとpendrin欠損マウスの平均血圧

【論文情報】

Aldosterone is essential for angiotensin II-induced upregulation of pendrin別ウィンドウで開く

Daigoro Hirohama, Nobuhiro Ayuzawa, Kohei Ueda, Mitsuhiro Nishimoto, Wakako Kawarazaki, Atsushi Watanabe, Tatsuo Shimosawa, Takeshi Marumo, Shigeru Shibata, and Toshiro Fujita

DOI:0.1681/ASN.2017030243

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