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中村・小坂研究室 :『疑似地球』で気候の揺らぎを探る

『疑似地球』で気候の揺らぎを探る
気候変動科学分野 中村・小坂研究室
2010年8月上旬に日本に記録的猛暑をもたらした上空の高・低気圧


酷暑に厳冬、集中豪雨やそれに伴う自然災害…。メディアでは頻繁に異常気象や地球温暖化に関するニュースが取り上げられます。気象・気候はなぜこんなに激しく変動するのか。それはどこまで予測できるのか。今回は、気候変動のメカニズムの解明と予測シミュレーションを研究する中村・小坂研究室を訪ねました。



■ 2010年はエルニーニョで冷夏のはずが…

太平洋高気圧の張り出しが弱くなり、日本は冷夏になると言われるエルニーニョ現象。「エルニーニョ現象は熱帯の海と大気が結合して一緒に揺らぐ現象で、その発生は数ヶ月前から予測可能です」と小坂准教授。では、なぜ2010年の夏はあんなにも酷暑だったのか。「気候は大気だけではなく、海、氷など多くの要因が複雑に絡み合ったもので、実際には偶然起こった小さな揺らぎが大きな変動へと成長します。冬に南米ペルー沖で発生したエルニーニョが、時期も位置も遠く離れた日本の夏に影響する“遠隔影響”は確かに重要ですが、それが異常気象のすべての原因ではないんです。異常気象にも予測できる部分とできない部分があり、後者が優勢になると通説がひっくり返り、今回のようなことになります。2010年の場合、6月上旬くらいまではエルニーニョにもとづく予測は当たっていました。7月以降に“予測できない部分”が勝ってしまった…ということです」

温暖化など外部からの影響で気候が変化する「気候変化」、CO2排出などの人間活動がなくても自然が自らのリズムで繰り返す「気候変動」のうち、中村・小坂研は「気候変動」に軸足を置く。「実際の地球で揺らぎを実験することはできませんよね?だから膨大なデータを使ってコンピュータ上の“疑似地球”でシミュレーションを行います」と話す中村教授。プログラムに従ってコンピュータが計算する“疑似地球”が、気候モデルと呼ばれるものだ。
 

 
気候系のHot Spot



中村教授が総括を務めた科研費の新学術領域研究(平成22~26年度)「気候系のHot Spot」。 中緯度気候系の随一の“hot spot”である極東・北西太平洋域に焦点を当て、アジアモンスーンと黒潮・親潮の強い熱輸送による「熱帯と寒帯とのせめぎ合い」の下で、海洋から大気への莫大な熱・水蒸気の放出をもたらす大気海洋(海氷)間の多様な相互作用現象の実態とメカニズムの解明を目指した。
 

別ウィンドウで開く 気候系のHot Spot

 





■ 過去を再現して、未来を測る

古典的な描像では、熱帯で発生した気候変動の情報が大気によって日本を含めた中緯度域へ伝わり、中緯度の海はこれに受動的に応答するだけとされていた。「米国留学時、周りの多くが熱帯の変動やそこからの遠隔影響を研究する中、僕はあまのじゃくなので中緯度を選んだんです(笑)。現在では、中緯度の海は熱帯の変化に影響されるだけの受け身的なものではなく、中緯度の海の変化が中緯度の大気に影響し、その影響はさらに広い範囲にも及ぶとわかってきました」と中村教授。2014年7月には、東シナ海の季節的な水温上昇が九州の梅雨期に起こる集中豪雨の発生時期の重要な決定要因であることを明らかにした論文を発表。温暖化に伴い、今後東シナ海の水温が激しく上昇すると、今世紀末には集中豪雨の発生時期が早まり、雨量も現状よりさらに増大する可能性がある。防災・減災への社会的な適応策を策定する上で極めて意義深いと多くのメディアで取り上げられた。

一方、小坂准教授は熱帯及び熱帯から中緯度への影響を研究。「研究室では私があまのじゃくですよ」。2015年7月、小坂准教授をはじめとする研究グループは、日本の夏に異常気象をもたらす遠隔影響について、現在のような観測体制が整っていなかった1897年にまで遡って過去117年間の気象観測データを復元し、長期解析を行った研究成果を発表。解析は、日本の気象庁をはじめ、フィリピン、台湾、上海、さらにはアメリカ議会図書館等から埋もれている紙媒体の気象資料を収集・電子化して行われた。この研究成果は、台風や猛暑・冷夏等、日本を含む東アジアの人々の生活や農業に大きな影響を及ぼす夏の異常気象について、季節予報に大きく貢献すると期待されている。

近年、天気予報などで目にするシミュレーションが著しく進化しているため、一般的な発想では、温暖化に関しても精度の高い予測シナリオが描けると考えてしまうが、中村教授はこうコメントした。「将来を決めるのは、人類ですよ。」

ゼミの様子 中村研集合写真
 












(左)楽しそうに笑っていますが、実は数式の間違いを指摘されていました。
(右)「本を持って写ろう!」と学生が提案すると「わざとらしいよ…」と気乗りしなかった中村教授。みんなの勢いに負けて撮ると、こんなにいい写真に。

 

■ 気候シミュレーションは、判断材料

「気候シミュレーションによる予測には、必ず“不確実性”が含まれます。さらに、人間活動によるCO2排出量の増加が将来どうなるかもわかりませんし、火山活動等も気候に影響します。また、数値予測では必ず“バタフライ効果”といって、ほんの小さな違いが後に大きな誤差を生む現象もあります」と中村教授。小坂准教授も「もちろん予測の精度を上げる努力はしていますが、私たちの仕事のひとつは、例えばCO2の濃度がいくつになったらどの程度の影響があるのか、といった“社会が考えるための判断材料を提供する”ことです」と話す。つまり、予測ではなくシナリオ分析ということだ。「気候モデルの精度はかなり上がっていますが、実際に予測で使われるデータは、観測時点の地球の真実とはほんの少しズレがあります。例えば、降水予測には水温のデータが必要で、近年の人工衛星により水温変化の細かな構造をかなり捉えきれてきましたが、まだ十分ではありません。ひょっとすると沿岸域の豪雨や霧の予測に誤った情報を与えているのでは、とも危惧しています」。中村教授によると、日本周辺の海は着実に温暖化が進んでいるという。「影響が出てくるのはこれからで、特に雨の降り方は変わると思います。現在の極端な天候に海の温暖化がどれだけ効いてくるのか。今後は、海と大気がどのように影響し合って今の大気の流れを作っているのかを、最新の研究成果を踏まえて評価し直したい」と話す。

日本の観測史上、最も暑い夏トップ5のうち4つは平成、そのうち3つはここ5年以内に観測された。(いずれも2015年までのデータにもとづく。) 果たして日本の気温はどこまで上がるのか。「現在の観測データでは、全球平均気温の上昇が15年ほど停滞する温暖化の”ハイエイタス”にあります。実は、この停滞に寄与している熱帯太平洋変動は、日本の夏を暑く、冬を寒くすると言われています。温暖化が再開すると、日本の夏は当面はそれほど暑くならないかもしれません。でももっと温暖化が進んでからまた停滞が起こったら、今よりもさらに厳しい酷暑が何年も続く恐れがあります」と小坂准教授。「これまで主に夏の研究をしていますが、今後は他の季節にも広げ、日本を含む東アジアの異常気象のメカニズムや予測に関わる研究を進めていきたい。熱帯や外部からどんな影響がどのように来るのか。予測できるものとできないものは何か。まだやるべきことはたくさんありますね」。

また、大気現象の中でも雲は気候モデルでの再現が極めて難しい。「特に大気下層にへばりつくような雲は地球を冷やす働きがあるため、雲の専門家との共同研究を広げていきたい」と中村教授。年間を通してメディアの問い合わせが多い中村・小坂研究室。多忙と情熱の上昇気流は、ますます勢いを増しそうだ。


「気候シミュレーション」って? 区切り線
使われるデータ地球:大きさ、自転、重力、太陽からのエネルギー 陸・海・大気:陸と海の分布、陸上 /海底の地形、陸上の植物の分布、大気に含まれる化学成分   物理の法則を使ったプログラム 研究者の知見に基づく仮定 スパコン上の『疑似地球』気候モデル 個々の気候モデルには仮定に基づく異なる特徴がある

ある気候モデルで複数の初期値を用いてシミュレーション


初期値によってシミュレーション結果が異なる
やじるし

複数モデルを組み合わせて平均をとるマルチモデルアンサンブル手法


メディア等で取り上げられる値は複数モデルの平均が多い







 

研究者の横顔

中村尚 教授
大学院時代、山歩きのときにはラジオと天気図用紙を持ち、天気図を描いたという。「だって、山の天気はすぐに変わるから危ないでしょ」と笑う。中学生からの筋金入りの天気図少年だったらしい。「天気図を見ると、自分がいま地上から見ている空をはこんな状態になっているんだ! と、俯瞰できるのがすごく面白くて」と嬉しそうに話す元天気図少年だが、小坂准教授によると「研究室では学生の言葉遣いに厳しい」とか。「日本語は因果関係が曖昧な言語なので、特に気候の研究については使い方を間違えると間違った推測や解釈につながって大変なことになってしまうからね」と話す中村教授。外国人研究者との交流には、ノンバーバルなKARAOKEが活躍するとか。
 
 
小坂優准教授

中村研究室出身の小坂准教授。中村教授は「彼女の学位論文は素晴らしかった。これから研究室の可能性やテリトリーを広げてくれる人です」と期待を寄せる。もともと理論物理が好きだった小坂准教授は、物理の法則を使って将来を予測するこの分野で研究をしてみたいと思ったという。「温暖化の話が出てきたのは中学生の頃でした。当時よく読んでいた『Newton』の編集長が地球物理学者だったので、内容に影響されたのかもしれないですね」。クールに見える小坂准教授だが、「予想通りの数値が出るとうれしくて、グラフを見てはニマニマしています」という意外な一面が。「ハイエイタスの全球気温を再現できたときは、週末の間ずーっとグラフを眺めてましたね(笑)」。
 

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