当事者研究分野 熊谷研究室
学際的なアプローチによる当事者研究のファシリテーションと検証
当事者研究とは、2001 年に日本で始まった新しい研究活動です。長期にわたって精神病院に入院していた精神障害のある人々が、退院して地域のなかで生活するなかで直面する苦労に対処するために発明した研究方法です。その後当事者研究は精神障害だけでなく、依存症、発達障害、慢性疼痛、トランスジェンダーなど、様々なマイノリティをもつ当事者の自助の方法として広がっていきました。最近では、子育て世代の苦労や、引きこもりの苦労、医療従事者の苦労など、マジョリティを自認する人々の間でも当事者研究が行われ始めています。
当事者研究は自助の方法としてだけでなく、新しい知識を産み出す研究方法としても注目されています。事実、自分の経験を理解し他者に伝達したくても、それを表す概念やフレーズが世の中にない当事者が、新しい知識を産み出す必要に迫られるなかで当事者研究はうまれました。私たちの研究室では2015年から、哲学、社会科学、医学、工学などの専門家とともに、名状しがたい経験に対して新しい概念やフレーズを考案したり、当事者研究のなかで提案された仮説を検証したり、当事者研究を通じて顕在化した潜在的ニーズに対する支援方法を開発したりしてきました。
さらに当事者研究は、企業、大学、障害者支援事業所、刑事施設などにおいて、多様な人々が相互理解と協働を通じて高いパフォーマンスを発揮するチームや組織を実現する方法としても活用されています。私たちの研究室では、企業、障害者支援事業所、中央省庁を対象とした調査により、正確な自己知をもつリーダーのもとで、チームの心理的安全性が高まり、その結果、パフォーマンスややりがい、メンタルヘルスが向上するだけでなく、差別心が低下することを見出だしてきました。現在は、リーダーの自己知を育む介入プログラムとして当事者研究を活用し、その効果を検証しています。
このように当事者研究は、「自助の方法」「研究の方法」「組織変革の方法」という3つの側面をもつユニークな活動です。
集合写真
私は生まれつき、脳性まひという障害をもっており、電動車いすに乗って生活しています。小児科の臨床医として仕事をしたあとに、当事者研究をテーマに研究活動を始めました。様々な当事者の経験やニーズを起点に、学際的な研究を立ち上げる当事者研究は、驚きと希望、そしてユーモアに満ちています。
メンバー
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- 熊谷 晋一郎 教授
専門分野:小児科学、当事者研究
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