気候変動科学分野 中村研究室
ビッグデータ解析と多様な数値シミュレーションで気候系の形成・変動や異常気象の予測可能性を理解する
大気と海洋の相互作用から気候変動を読み解く
地球の気候系は大気と海洋が相互に影響し合って形成され、そのカオス的な性質を反映して常に変動しています。こうした自然変動(揺らぎ)が人為起源の地球温暖化に重畳して、社会に大きく影響する異常気象をもたらしているのです。当研究室では、地球温暖化のみならず、自然変動とその予測可能性の理解を深める研究を展開しています。
私たちの研究に特に有用なのは「再解析」データです。これは膨大な観測データを数値モデルに取込み、過去から現在に至る大気・海洋の状態を4次元的に矛盾無く再現したビッグデータです。数値シミュレーションも、気候の将来変化は勿論、複雑な相互作用過程の理解を深める上で重要です。特に、自然変動のカオス性を考慮して初期状態を僅かずつ何通りも変えた「アンサンブル実験」は、複数の「擬似地球」の巨大データを作るもので、気候変動や異常気象の因果関係を明確化し、予測可能性を評価する上で極めて有効です。私たちはこれらビッグデータに統計解析や理論的な力学診断を適用し、目的に応じた数値モデル実験を通じて、様々な変動現象のメカニズムや予測可能性の解明を目指しています。
4次元地域気象データの整備と社会活用の推進
我が国では地域的な大気状態を高い時空間解像度で過去から現在まで4次元的に再現した地域気象再解析データが整備されていません。先端研では当研究室が中心となって気象庁と本学情報基盤センター等と協力しつつ、このデータの整備と幅広い社会利用を促す10年計画の「共創の場形成支援プロジェクトClimCORE」を、科学技術振興機構からの支援の下で2020年末に開始しました (プロジェクトリーダー (PL): 中村教授)。現在作成中の日本域気象再解析データRRJ-ClimCOREは、気象庁の最新のメソ予報・同化システムに過去の観測データを取り入れるもので,今世紀に入ってからの日本とその周辺海域の大気状態を水平5km間隔で1時間毎に再現するデータです。併せて、雨量計とレーダー観測を融合した気象庁の「解析雨量」データ(1km間隔の時間降水量)の更なる改善にも取り組んでいます。なお、当研究室所属でClimCORE副PLを務める飯田誠特任准教授については、付属エネルギー国際安全保障機構 (風力波力分野) をご覧下さい。
2010年8月に日本に記録的猛暑をもたらした上空の高・低気圧の波列
黒潮やメキシコ湾流に沿った活発な大気海洋相互作用
北極海氷減少がアジアにもたらす寒波
「温故知新」 ─ これこそ私たちの研究姿勢を表す言葉であり、それを支える「再解析データ」の意義を示すものです。それは最新の数値予報システムに過去の観測データを取り込んで(同化して)、過去から現在の長期にわたり大気や海洋の状態を4次元的に高品質で再現したビッグデータです。これに統計解析や力学診断を適用し,大気循環の変動やそれに関わる海との相互作用の実態をまず把握し、そのメカニズムを数値実験も利用して解明し、予測可能性の探究や温暖化シミュレーションの解釈に役立てています。私が会長を務める気象庁異常気象分析検討会も全球大気再解析データがなければ成立ちません。但し、熱波や豪雨など温暖化の顕在化とともに近年 深刻化する異常気象の分析には、全球再解析に加え、より高解像度の日本域気象再解析データが望まれます。この作成こそがClimCOREプロジェクトの目標です。水平5km,1時間毎のデータは熱波や豪雨など地域的な極端現象の実態把握や防災・減災は勿論、再生可能エネルギ-や農業、交通・物流、保険・金融など気象の影響を受ける社会の幅広い分野での利用が期待されます。その際にはAIの活用が不可欠ですが、実は最近ではAIによる気象予測も実用段階に近づいています。実は、これこそ温故知新であり、実用的なAI予測には高品質の長期再解析データと解析値(予報の初期値)とが欠かせません。つまり、AI予測は現在の気象予測システムがあってこそなり立つものなのです。再解析データは今後益々重要になるでしょう。
メンバー
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- 中村 尚 教授
専門分野:気候変動力学、大気海洋相互作用、異常気象の力学
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- 宮坂 貴文 特任准教授
専門分野:気候変動、異常気象、大気海洋相互作用
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